荒廃都市グレメント編

第23話 謎の少年

 魔王の件があって、やっと本格的にグレメントを目指せるようになった。ユキトは休ませるためにルリィを指輪に戻した。


 そして、日が暮れる前に着きたかったので、少し急ぎ気味で進んだ。

 途中休みつつ、三時間ほどでグレメントに着いてしまった。


 夕暮れ時、都市グレメントは人が多いはずなのに 静寂に包まれている。風が誰もいない街に吹いているだけだ。こんなにも静かなのはおかしい。何かあったに違いない。

 では、その何かとは何だろうか。建物はあって人がいない状態とは?


 あぁ、そう言えば一時期ゾンビ映画にはまってたなぁ…。ユキトは急に思い出した。

 ゾンビウイルスが世界中に拡大して荒れ果ててしまう。ゾンビが増えていくのを阻止するために人々が立ち上がり戦っていく、というような話だったと思う。

 この、人がいない状態はそれと近似している。街の中に入ると突然ゾンビが飛び出してくる、なんてな…。


「ユキト、あれって人…かな?」


 メリザが指を差した方から誰かが歩いて来ていた。

 これは…まさか、うわさをすれば…というやつかな。

 その人はまず歩き方が変だ。手を前に出してだらんとさせている。それに遅い。歩きは徒歩と同じぐらいだ。そんなにゆっくり歩いていたら日が暮れてしまう、まではいかないがそんな感じだ。肌も変色して腐っているようだ。


 次の瞬間、ユキトはゾンビと断定した。


「うぅう…うぅ……あぁ…う、あぁ……」

 と、その人がうめき声を発したのだ。


「あれは多分、ゾンビだ。死んだ人間が生き返ったものだ」

「ぞ、ゾンビ…?何それ」

「ゾンビ、ゾンビー!ゾンビって?」


 メリザとビャッコは知らなくて当然か…。


「この世界のゾンビは分からないけど、頭を壊さない限り動き続けるんだ。ちなみに噛まれるとゾンビになるから注意が必要だ」

「それって、何も知らなかったら危険だね」

「ユキトっち、どうする?止まらないよ」

「ビャッコ、魔法で縛れないか?」


 ユキトが提案するとビャッコは「できるよ!」と自信満々で言った。

 するとビャッコは雷雪弾を出して横に引き伸ばした。

「雷雪のひもだよ!」


 雷雪のひもを作るとゾンビに向かって投げた。ゾンビに当たると、しびれた後にひもが体に絡(から)みついた。


「うぅ…うぅ…」

 ゾンビは動けなくなった。

 しかし、その後ぞろぞろとゾンビの集団が集まってきた。男の人や女の人、子供までいる。


「やっぱりな…」

「やっぱりって、どういうこと?」

「あのゾンビたちはここの、グレメントの人たちなんだよ」

「ということは、グレメントの人たちがゾンビにされたってこと?」

「そういうことになるな」

「やあっ!」

 ビャッコは雷雪で作ったひもを、次々とゾンビに絡ませて拘束していった。


 動きながら街の中に入って行くと、離れた家から手招く少年がいた。ユキトたちはその少年の所に行くことにした。


 少年がいる家のそばに来ると、後ろから来ていたゾンビたちは見えない壁に遮られたようにその場にとどまる。地面に文字のようなものが書いてあり、まるで結界みたいだ。


「さあ入って」


 そう言うと少年は家の中に入って行った。ユキトたちも家の中に入ることにした。

 少年の家の中はあまり片付けていないのか、色々なものが散乱していた。テーブルのそばにいすがあり、少年はそこに座った。


「君たちも座りなよ」

「なあ、さっきのって…」

「君が思った通りの結界だよ。死人(しびと)避けのね」


 メリザとビャッコはおもむろにいすに座った。


「君たちは魔術を知っているかい?」

「魔術か…」

「私は少しだけなら…」

 メリザは自信なさげに答えた。


「確か文字を使った魔法のようなもの、だった気がする」

「うん、半分は合ってる。魔術は魔法のように魔力を使わないんだ。よく知ってたね、お嬢さん」

「お、お嬢さんって…あなた年下でしょ?」

「悪いね。今はこの格好だけど、魔術で少年の姿になっているんだ。この姿の方が色々と勝手がいいからね。実際は三十過ぎのおじさんだよ」

「う、うそ…」


 メリザは驚きで言葉が出ない。


「ところで、ここへは何しに?」

「この街に古い本を探しに来たんだ」

「古い本…あれかな…」


 少年の姿のおじさんは知っている風だった。


「いや…多分だけどね。…で、その本をどうするの?」

「同じ種類の本が九つあるんだけど、集めると何かが起こるらしい」

「ははは!何かって、分からないのかい。君面白いね!いいよ、協力するよ!ぼくはアービンだ、よろしく」

「おれはユキトだ。こっちがメリザとビャッコだ」

「メリザです」

「ビャッコだよ!」


 ビャッコは手を挙げて元気に言った。


「元気だね!それはそうと、本探しの前に腹ごしらえでもどうかな?」


 ユキトたちは腹ごしらえをすることにした。とは言っても出てきたのはパン一個が人数分だった。


「ごめんね、これしかなくて…。でも、ないよりましと思って」

「ああ。こんな状況なら仕方ないよ」

「ちょっと足りないなぁ…あむ、はむ…」

 ビャッコはパンをあっという間に平らげそうな勢いだ。


「ビャッコ、もっとゆっくり食べなって」

「美味しいです!少し懐かしい味がする」

「そうか、それは良かった」


 食事の時間はあっという間に終わってしまった。


「少し寝かせてもらうよ」

 ユキトは疲れたのか寝ることにした。車いすから床に下り、壁から少し離れた所に仰向けに寝た。ユキトが寝てしばらく経ってから、メリザがユキトの頭の所に行き、膝枕をした。それからユキトの頭をなでているとアービンが話しかけてきた。


「彼は足が動かないようだけど、なぜこんなに頑張れるんだい?」

「ユキトは…ここじゃない世界から来たんです。それで気が付いたらレオンデントにいて、生活することになりました」


 メリザは淡々と続ける。

「元の世界に戻る手がかりを探すために、九つの本を集めることにしたんです」

「なるほど…それでその内の一つがここにあると」

「でも来てみたら街が変で…」

「昔は都市グレメントと呼ばれていたが、今は荒廃都市グレメントと呼ばれているよ」

「荒廃都市…いつからこの街はこんなになっちゃったんですか?」


 アービンは腕を組んで考えをまとめてから話し出した。


「二十年ぐらい前かな…ある呪術師がいてね。そいつがとある実験を行ったんだ」

「実験…それって」

「ああ。それが人間を死人にして操るための実験だった」

「何をしたかったんですか?」

「彼は世界を支配しようとしたんだ。死人の実験は上手くいって操ることもできたんだが、唯一できないことがあった。その死人たちは街から出ることができなかったんだ」


 メリザは首を傾げた。


「何でですか?」

「色々と手違いがあったみたいでね。操れる範囲が狭かったんだ」

「そうなんですか」

「知っているのはそれくらいだね。ところで…ユキト君と君たちの関係って…」

「か、関係?…関係って」

「仲間だよー!」

 ビャッコが即答した。


「そうかい?彼女かと思ったけど。そしたらユキト君は両手に花だなと思って…」

「い、いや…彼女とかそういうのじゃ…」

「ははっ、冗談だよ!」

 メリザは少しアービンを面倒くさいと思ってしまった。

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