第22話 月狼の勇者

 魔王の城の二階には王の間がある。もちろんレイフォンスの部屋である。電気のようなものはなく、ろうそくの明かりだけが揺らめいて、辺りを幻想的に照らす。きれいなのか不気味なのか分からない。


 奥には玉座があり豪華な装飾が施されている。その玉座に座っているのはレイフォンスではなく、容姿端麗な女の人だった。黒髪で皮の鎧を身に着けていて、腰には赤い宝石のような輝きを持つ剣を携えている。

 メリザだった。だがメリザは眠ったままの状態だ。しかも手首には金属の枷(かせ)が玉座の肘置きと連結してつながれていた。


 メリザは足音で目が覚めた。ゆらゆらと揺れるろうそくの明かりが、ぼんやりからはっきりと見えてきた。それと、見たくないものも…。


「目が覚めましたか、お嬢さん」

「私はお嬢さんじゃなくてメリザ」

「失礼しました…メリザさん、僕の城へようこそ!」

 魔王レイフォンスは貴族のような礼をした。


「この枷を外して!」

 メリザは手枷を外そうと腕を動かしたがびくともしない。


「それを外したかったら僕の妻になってください」

「それはできない…」

「では、気が変わるまでそこにいてください。そのうちあの弱者、いえユキトが来るはずですから」

「ユキトが…来てる…!」


 メリザの目に希望が灯ったが、魔王の強さを何となく感じ、ユキトが敵(かな)わない気がして素直には喜べなかった。


「しばらく世間話でもしましょうか…。あなたの好きな食べ物はありますか?」

「今はそんな気分じゃ…。――な、何でも好きです…」

「そうですか。それは素晴らしいですね。王の妻にふさわしい」


 レイフォンスは嬉しそうな表情を浮かべた。


「では嫌いな食べ物は?」

「な、ないです…」

「なるほど。ますます王の妻にふさわしいです!食の好き嫌いは王の妻の器として重要ですからね」


 レイフォンスはメリザをより気に入ったようだ。


「おっと…喜んでいる場合ではありませんね。来ましたか…。ということはスムーザを倒したのですね。一応力は付けてきたということですか」


 王の間への扉を押して入ってきたのはルリィだった。その後ろから車いすに乗ったユキトが入ってきた。そして、レイフォンスの方まで近づいていき止まった。


「ようこそ我が城へ。ちゃんと時間通りに来ましたね」

「ああ。時間は守るタイプだからな」

「何しに来た、かは言うまでもありませんね…。いくらあなたが強くなったからと言って僕に敵うはずがありませんよ」

「やってみないと分からないよ」


 ユキトは集中して呪文を唱えた。


「コンバートフォースアームド!!」


 光り輝くルリィが空中に浮かび上がった。そのままユキトの口にそっと口付けをした。するとルリィがユキトの身体と車いすに武装し始めた。ルリィの頭は兜、腕は腕当て、脚は脛(すね)当て、胴体は鎧になった。さらに車いすのあちこちにも武装した。

 ユキトはさながら、魔王を倒す勇者のような出で立ちになった。


「ユキト…カッコイイ…!」

「ありがとう、ルリィ!ルリィの力借りるよ」

「うん…」


 魔王レイフォンスはユキトが魔法を使ってもなお冷静である。


「それがどうかしましたか。その月狼の力を借りたところで、僕には及びませんよ」

「後で後悔しても知らないですよ、魔王様」

「――弱者が、僕の何を知っていると言うんですかあぁーーっっ!!」


 レイフォンスの怒りが爆発しユキトに襲いかかった。

 怒りに任せて氷塊を連発した。


 しかし、ルリィを武装したユキトは簡単に避けてしまう。ユキトは車いすをこがず、動き回っている。ルリィを武装したことにより自動で動けるようになった。


「僕の…前から…消えてくださいっっ!」


 レイフォンスは指をぱちんと鳴らした。レイフォンスの氷気だ。ユキトの周りに冷気が漂い始めた。足元から凍(こお)り始め、ユキトは見事な氷漬けになった。


「どうですか、僕の力は!」


 ユキトは凍ったが氷は光りだし、ひびが入り割れた。


「なぜですか。なぜあなたは僕の邪魔ばかり…」

「仲間を、メリザを取り戻すためだよ。レイフォンスも仲間を取られたら同じことをするんじゃないのか」


 ユキトは車いすに武装したしっぽから光の刃(やいば)、月刃を放ち空中にとどめた。

「黙れ…黙りなさい!!」

 レイフォンスが氷塊をユキトに飛ばすとユキトは月刃で対抗した。

 レイフォンスとユキトの打ち合いが続く。


 一つの氷塊がユキトに向かってきた。ユキトは避けずに右拳で跳ね返し、レイフォンスの顔すれすれに飛ばした。レイフォンスの頬にかすり傷がつき血が出た。


 レイフォンスは指で血を拭(ぬぐ)うと怒りをあらわにした。


「僕の…顔に、傷を…。この、魔王に、傷をつけましたね…!」


 レイフォンスの周りに冷気が漂い始めた。はっきりと目に見えるほどだ。


「本気の僕を見せることになるとは…。覚悟してください」

 そう言うとレイフォンスは瞬間移動し、ユキトの間近に迫ると冷気で吹き飛ばした。


 ユキトは後ろに飛ばされた。続け様に連続の攻撃を受けた。ユキトは防戦一方だ。レイフォンスの猛攻に苦戦する。

 だが、ユキトも負けてはいない。レイフォンスに対抗した訳ではないが、ユキトも瞬間移動した。ルリィの月影の力を借りた。そして、現れると月刃を飛ばしレイフォンスを遠ざけた。レイフォンスは後ろに下げられた。


「もう終わらせようレイフォンス。あんたは相手を間違えた。弱者をなめるな」

「僕が間違えた…そんなことは、そんなことは絶対に、あり得ません!!」


 ユキトとレイフォンスはお互いに跳び出した。

 レイフォンスは冷気を飛ばして、ユキトは右拳を前に出し突っ込んだ。


 レイフォンスの出す冷気で中々前に進めない。

 しかし、ユキトは拳に光を集め、ずんずん突き進んでいく。


「シャイニング、フィストーーッ!!」


 ユキトの光の拳はレイフォンスの顔にめり込み、吹き飛ばした。

 冷気が消え去り、辺りに心地よい風が吹いた。


 しばらくして、ユキトの武装が解けた。


「ルリィ、力を貸してくれてありがとうな」

「全然、平気…」

「そうだ、メリザを」


 ユキトはメリザがいる玉座の方へ向かい、手枷を片方ずつ外した。


「ユキト、あの…あ、ありがとう…助けに来てくれて…!」

「ごめんな、メリザ。もっと早く助けに行けたらよかったんだけど…」

「いいよ…助けに来てくれたんだから」


 すると突然、魔王の城が地震のように揺れ始めた。


「な、何!?」

「これは…」


 ユキトが周りを見ると魔王レイフォンスが光っていた。


「ま、まだです…こうなったら、僕と共に滅びてください!」

 レイフォンスの光が強くなった。


「行こうメリザ。あいつは多分、爆発しておれたちを道連れにする気だ!」


 ユキトはルリィの背中に飛び乗り、車いすを右手中指に戻した。


「メリザもほら…」

 メリザに手を差し伸べ、自分の後ろに乗せた。


「頼むルリィ!」

「うん…!」


 王の間の入り口にビャッコがいた。やっと上がってきたのだろう。疲れてそうな顔をしていた。


「ビャッコ、城を出るぞ!」

「ふにゃー…了解!」


 ユキトたちが城の外に出ると城の一部が崩れ始めた。

 ユキトとメリザを乗せたルリィは岩場を走る。ビャッコは行きより遅いがちゃんとついて来ている。

 とにかく魔王の城から離れる。爆発に巻き込まれないように遠ざかる。もう一部どころか、全体的に崩れ始めている。


 そして十分に離れた時、城が閃光と共に爆発し、ものすごい轟(ごう)音が響き渡った。

 ユキトたちの方にも爆風の残りの風が吹いてきた。


「わあ、すごい爆発!メリちゃんおかえり!」

 ビャッコはメリザと熱い抱擁を交わした。


「苦しいよ…ビャッコ。でも、ありがとう…ビャッコも助けに来てくれて」

「当たり前だよ!」

「ねえユキト。これからどうする?」

「そうだな…。充分に休んでから グレメントを目指そう」

「分かった」


 魔王はとても強かった。これが残り四人いるとはな…。できれば相手にしたくない。交渉できる魔王であってほしい。まあ願望に過ぎないが…。

 五本指の一人の魔王を倒したユキトたちは休んでから次の目的地、グレメントを目指すことにした。


 じゃあな、レイフォンス。

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