第17話 レオンデント古世代史と異世界の伝説
五千年前のレオンデントには巨大な火山が四つも存在していた。その火山が五百年かけて噴火を繰り返して一つの大陸ができた。そこから植物が育ち動物が生まれ人間が発達していった。
ある時一人の魔法使いが生まれた。その魔法使いの魔法はとても強力で、それを恐れた魔法使いは自分の魔法を四人の子孫に分け与えた。その四人の子孫のそのまた子孫に魔法が広がって行き、やがて全ての人間に魔法が使えるようになった。
それと同時に魔法を悪用する者も現れた。その魔法使いは動物に魔力を与えた。その動物が力を持ち、魔物と呼ばれ人間を襲うようになった。そこから人間と魔物の争いが始まった。
ある時は人間が魔物を蹂躙(じゅうりん)し、またある時は魔物が人間を惨殺し食ったりすることもあった。そうした領地の取り合いが何百年、何千年と繰り返された。魔物は死ぬと分子化するが、人間の骨はおびただしく残った。それは戦いの激しさを物語っている。
「人間と…魔物が…ぼこぼこぼこーって?」
ビャッコが両手をぶつけ合わせて表現した。
「ぼこぼこぼこー、はちょっと違うな」
「えっ、違うの?…どどどどどー?…がががががー?…ぐちゃぐちゃぐちゃー?」
「ぐちゃぐちゃぐちゃー、が一番近いかもな」
「やったー!当たった!」
「何やってるの二人とも…」
メリザが正しいツッコミをした。
「ビャッコでも分かるように説明してるんだよ」
「抜き打ちクイズだよ!」
「クイズを挟むことで楽しく覚えることができるんだ」
「まぁいいよ…二人が楽しそうだから」
約五千年経った今、人間と魔物の間には均衡が保たれている。いわば、にらみ合いの状態が続いている。いつ均衡が崩れてもおかしくはない。
人間の中で魔物に堕(お)ちたものがいることが報告されている。
その中でも、特に優れている者を魔王と我々は呼んでいる。魔王は五人いて五本指と称される。それぞれ親指、人差し指、中指、薬指、小指という二つ名が付いている。何百年もの間、代わる代わる続いてきた。だが、性別、能力などの詳しいことはいまだ謎である。
「魔王ってどのくらい強いんだろ?」
ビャッコがあごに手を当てて聞いた。
「さあ…この世界で強さの基準は魔法で、魔力量が多ければ多いほど強いんだろうな…」
「あたしも魔力はある方だけどな」
「いや…ビャッコでも敵(かな)わないと思うけど…。魔の王だし。五人いるし…」
「えーっ……そっか。あたしなんか指一本で倒せちゃうか…」
「そこまでは言ってないけど…」
隣のメリザを見ると「うーん…」と、唸(うな)っていた。
「もし…魔王に会ったらどうする、ユキト?」
「そうだな…。逃げる、かな?」
「えっ、逃げちゃうの?」
「まあ話し合えれば一番いいんたけど…おれが想像する魔王は極悪非道だから話し合いは通用しないと思う」
「それで逃げるってことね」
「十中八九、逃げられないと思うけどな…」
ユキトは、ははっと苦笑いをした。
「そろそろこっちの本読まない?」
と言ってメリザはもう一冊の本“異世界の伝説”を手に取った。
「それもそうだな」
ユキトは今読んでいた“レオンデント古世代史”という本を閉じて机に置いた。そしてメリザが“異世界の伝説”を開いた。
この世界はレオンデントというが、ここではない別の世界が存在していることが分かった。なぜ分かったかと言うと別の世界から来たという人間が現れたからだ。
その人間はタケダと名乗りこう言った、「わたしは普通の会社員だ。地球と言う世界から来た!」と。
「かいしゃいん…って何?」
メリザが聞いた。
「簡単に言うと…働く場所で身分が低い人かな。身分が高い人から色々言われて大変な仕事だよ」
「貴族とかの侍従みたいな感じかな?」
「侍従まではいかないな」
「地球はユキトもいた世界なんだよね?」
「ああ。何日か前は地球にいたと思うと変な感じだけどな」
「ふふっ、確かにそうだね」
メリザは優しく微笑んだ。
タケダはこうも言っていた、「地球には魔法がなく魔物もいない。動く生き物は人間と動物の二種類しかいない。そして、比較的平和である」と。
魔法は便利だがそれが使えなかったらどうだろうか?レオンデントのほとんどの人間が不便と感じるだろう。しかし、タケダはそんな世界から来た。しかも理由も分からないという。いきなり地球という世界から知らない世界レオンデントに来てしまった。さぞかし孤独だったであろう。タケダは一度落ち込んだ。眠れない日が続いたとも。
一度は落ち込んだが、考えてもしょうがないと思い旅に出た。旅をしていく中でタケダは紙に文字を綴(つづ)っていた。タケダの魔法は文字に関係したものらしい。魔力を使って書いた文字には不思議な力が宿る。文字を書いた紙を束ねて本にしていった。その本を様々な場所に残し、悪用されないようにした。何でも、その本は九つあり全て集めると地球に行ける、かどうかは定かではないが何かが起こるという。まるで空想のような話である。これは何百年も前の話で今となっては詳しいことは分からない。
タケダ自身が地球に帰ることは年齢的に難しいと悟り、他にもいるタケダと同じような人間を助けたかったらしい。
ところで、九つの書は臨の書、兵(ぴょう)の書、闘の書、者の書、皆(かい)の書、陣の書、列の書、在の書、前の書で九か所にあるが、所在が分かっている書は三冊だけである。他の六冊は自力で見つけるしかない。
分かっている一か所目は空中都市ファルフォルテである。
ノスタル大国の西側に位置し、湖の上に浮かんでいる土地。空中都市ファルフォルテはファルフォルテ城、城下町からなる。
ここには天飛人(てんぴじん)という種族の人間が住んでいる。天飛人は背中に羽が生えていて空を飛べる。ファルフォルテには地上にあるフォルテシオンの街から入ることができる。フォルテシオンの住人たちの背中の羽は発達途中で小さい。羽が成長するとファルフォルテに行くかどうか選べるらしい。天飛人以外でファルフォルテに入れるのは商人など特別な許可を得た人だけだという。
分かっている二か所目は大都市ウォドラスである。
ノスタル大国の東側にあり、鎖国国家で外から来た人を拒む。それもあり大都市ウォドラスの情報はほとんどない。そのほとんどない情報の中で唯一分かっているのが、街に入った人はそれから一度も戻って来ないことだ。入る許可を得るのは相当な時間がかかるらしい。街の情報は情報屋でも集めるのは困難を極める。
分かっている三か所目は都市グレメントである。
都市グレメントはレオンデントの北側に位置し、植物が豊富で家畜などを育てる人がまあまあいる。ここは魔術が発展していて魔術師も多くいる。魔術は魔法と違い魔力を使わずに発動できるが、魔法のようにすぐに発動出来ないというデメリットもある。魔術にも種類があって様々なことができる。ただ一つ、それらは必ず文字を書くことで発動される。
「九つの書を集めると何かが起こる…か。何が、までは分からないか…」
「そうね…。ユキトがいた地球に帰れるかも分からないんだね」
「九冊の本を集めてどうすんの?」
ビャッコは理解できなかったみたいだ。
「集めて並べるんじゃないか?そのあと呪文を唱えるとか…」
「どんな呪文?」
「さあ…な。願いを叶えたまえ、とかだったりして…」
「それで空中都市ファルフォルテ、大都市ウォドラス、都市グレメントの三か所だけはその本が確実にあるってことだよね」
メリザが本題に戻した。
「この三か所のどこから行こうか?」
「そうだな…おれはもう決めたよ」
その後メリザは“異世界の伝説”を閉じた。
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