ノスタル大国編
第15話 “ウォーターシェーク”にて
トルメ西の海岸沿いを抜け、山道を進むと遠くに街並みが見えた。巨大な樹が国の真ん中にそびえ立っているのが分かる。
ユキトたちはノスタル大国に着いた。
途中で何回かステーションに停まったが、だいたい二時間ぐらいで到着した。半分以上傾いた夕日が街を照らしている。
ギロッタとは船内で別れた。
「じゃあ、またな」
「うん、ばいばーい」
と言い、行ってしまった。髪の色と同じように明るい少女だった。
ユキトたちも陸上船の外に出て船長のレイジーンにお礼を言うことにした。
「レイジーンさん。ただで乗せてくれてありがとうございました!」
「いいんだよ。僕からの感謝の気持ちとして受け取ってくれ!」
その直後、誰かのお腹が大きな音をたてた。
「んにゃっ!?ごめん…あたしお腹すいたみたい」
「そうか。確かにお腹すいたな。そうだ、レイジーンさんのおすすめの食事できる店はありますか?」
「そうだねー。お客さんからよく耳にするのは“ウォーターシェーク”という店だね!なんでも、かわいい看板娘がいるみたいだよ」
「ウォーターシェークか。他に当てもないしそこに行くか」
「ユキトちょっと聞いてもいい?」
メリザが小さく手を上げて質問した。
「もしかして…その看板娘が見たくて行く訳じゃないよね?」
「いや、半分以上そうだな」
「正直でよろしい。まぁ私も気になったけど…」
「だろ?行こう!ウォーターシェークに」
「いこーう!」
レイジーンに別れを告げ、“ウォーターシェーク“という店に行くことになった。
ところで、ノスタル大国のステーションは東側にある。
“ウォーターシェーク“はステーションから南西に少し行った所に店を構える。人通りが少し多い所にあるためか人気は高いという。
特にお腹がすいたビャッコを先頭に、ユキトたちは初めての街を眺め歩く。
そして、あっという間にその場所に着く。
看板に“ウォーターシェーク“の文字を見つけた。店の外観は少しテーマパークのようで、水が曲線を描くようなデザインの飾りが付いている。
ユキトたちは早速店の中に入った。店の中も水のデザインになっている。それ以外は普通のレストランのようだ。
その中でひときわ動き回っている給仕係がいた。例の看板娘らしい。水色の髪をした少女で二つ結びをしている。そして何より笑顔がアイドルのようだ。これは十分に看板娘になる要素が満載だ。
ユキトは見るのもほどほどにして店の空いている席に着くことにした。
席に着きしばらく待っていると、どこからともなく看板娘が来た。
「あれー?初めて見るし、この街の人じゃないねー!はじめましての人には挨拶してるから注文待ってね!」
そう言うと看板娘は服を整えてから、「わたしはピーシャ。この店ウォーターシェークの給仕係でーす!」と両手ピースで決めポーズをした。
挨拶した後、看板娘ピーシャは少し恥ずかしそうにしてから、注文を取る体勢になった。
「おすすめの食べ物はあるかな?」
「うーん…肉たっぷり炒めとか、かな」
「じゃあそれで!」
ピーシャは一瞬むっとした。
「じゃあ?まあいいけど…。飲み物はいかが?」
「水を頼む」
「えーっ、水でいいの?お酒とかどう?」
「飲めるけど水で」
「変だよ、この車いすのひとー!お酒頼んでよー!他の二人は…?」
「じゃあこの果物のジュースで!」
「あたしもー!」
メリザとビャッコは果物のジュースを注文した。ピーシャは少し涙目になっている。
「うるさいなピーシャ。その人たちはお酒が飲みたくないんだからいいじゃないか。別に変じゃないと思うけど…」
青髪の給仕係の少年がピーシャに言った。
「でも…リリマル。せっかくならお酒飲んでもらいたいじゃん!うちのお酒、おいしいんだからー、うー…!」
「泣くなよ、人前で。早く運んだ方がいいんじゃないか?」
「リリマル、ひどいよ!ひっく…」
と言いながらも、動き出すピーシャは給仕係の鑑(かがみ)だ。
それにしても仲が良いな…。ピーシャという給仕係とリリマルと呼ばれる給仕係は。喧嘩(けんか)するほど仲が良いって言うからな。まぁ、さっきのは喧嘩とは言えないけど…。
ピーシャが騒ぎ立てるのをリリマルが治めるという形が出来上がり、いいコンビネーションとなっている。注文したものが来る間、陸上船の話になった。
「陸上船の乗り心地よかったな!」
「そうね!景色もきれいだったし」
「うん!全然酔わなかった!」
「酔いやすいのかビャッコは」
「そうなの。乗り物全般はだめ…。でも陸上船は大丈夫!」
ピーシャが飲み物を運んできた。
「陸上船乗ったんだー!…どこから乗って来たの?」
テーブルに飲み物のグラスを置きながら聞いた。
「ああ。ダルトスからトルメを経由してな」
「へぇー、トルメってけっこう遠いね。わたしも乗ってみたいなー!」
ピーシャがユキトたちと話しているとリリマルが大皿を運んできた。
「ピーシャ、料理できたよ。しょうがないから運んであげたよ」
「あっ、ありがとう!リリマル。お待たせしました!オータンスっていう牛の肉たっぷり炒めだよ!」
ピーシャはリリマルから大皿を受け取り、ユキトたちのテーブルに置いた。
「どういたしまして」と、リリマルは優しく答えて去って行った。
「食べてみて、食べてみて!」
と、ピーシャは一緒に付いてきたフォークを三人に配った。
お腹空きまくりのビャッコが理性を忘れて口に頬(ほお)ばった。ビャッコは目を開いて飛び上がりそうになった。
「うまうまだー!!」
「でしょー、美味しいんだよー!店長の作るものは!」
あたかも自分のことのように自慢するピーシャに、遠くから店長がガッツポーズで答える。ユキトとメリザも一口食べた。
「おー、確かに美味しいな!このタレと合ってる」
「うん!良い味!」
「どんどん食べて!じゃあ、また注文があったら呼んでね」
そう言うとピーシャは他の客の所へ行ってしまった。
その後、ユキトたちは普通に食事を楽しんだ。オータンスの肉たっぷり炒めはあっという間に無くなり完食した。飲食を終えたユキトたちは五百ラウを支払った。
「ちょうどお預かりしまーす!じゃあまた来てねー!」
ピーシャはユキトたちが見えなくなるまで見送った。
これがユキトたちのノスタル大国での最初の出会いとなった。
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