第11話+ メリザの説教後寝るまで

 三十分ぐらいはじっとしていただろうか。


 自分より、正座をさせられているビャッコの身が心配だ。おれもこんなに長びくとは思わなかったが、これってそもそも何の説教だったっけか?


 確かビャッコが一緒に寝たいとか言ってて、変な意味はないんだろうけど…。それをメリザが止めたのに、後で夜這いしてきて怒られて説教だったか…。メリザが怒っているのは一緒に寝ることに対してだったよな。やむを得ない場合や野宿とかなら、おれは一緒に寝てもいいとは思う。でも宿はなぁ…。まだメリザ、ビャッコとも長くは過ごしてないし、同じ部屋で寝るのも気を使う。


 まあ普通に考えてメリザの言っていることは正しいと言えば正しい。知り合ったばかりの男女が一つ屋根の下で寝るというのは何かがある…はずだ。何もないけど…。というか、ガッツリ理系で自分から話しかけるのも得意じゃないし…、まず告白したこともないのだから。人と話すのは嫌いじゃないんだけどな。


 でも、小さい頃に女の子とよく会ってた記憶があるような…。それで遠くへ行ってしまったという覚えがある。それからしばらくは手紙でやり取りしていたが、その先は覚えていない。相当前のことだから覚えてないのも無理はない。


「――なんだからね、分かった?ビャッコ聞いてる?」


 ビャッコは足のしびれが限界を迎えている。


「なあメリザ、もうビャッコも反省してるし、そろそろ許してもいいんじゃないか?」

「でも…」

「説教は端的に短くした方が伝わりやすいってどっかで聞いたことがあるぞ!」

「そうなの?まぁ…それなら…終わりにします!」

「そうか、ありがとうな!」


 あっさり終わったな…。メリザは物分かりが良くてよかった。ビャッコは脚をくずしてしびれをなくしている。


「じゃあ行くよ!ビャッコ。ユキトもごめんね、おやすみ!」

「ああ、おやすみ」

「ご、ごめん、ユキトっち…」


 ビャッコがメリザに連れられて足をやっと動かしている。

 二人が部屋を出るとユキトは息を吐いた。


「ふぅーっ…やっと終わったか…。ちょっとルリィ呼び出すか」


 召喚魔法ブラッディサモンを唱えた。右手の人差し指の指輪が赤く光り、ユキトの前方に形作った。夕闇のような紺の毛並みでしっぽは三日月のようになっている。ルーンフェンリルのルリィだ。心なしか少し、いや中型の犬くらいの大きさになっていた。ユキトの経験値が増えているようだ。


「ルリィ、成長したのか。よーしよし」


 ユキトは柔らかい毛並みをなでながら成長を実感している。ルリィもぐるぐる喉を鳴らして気持ちよさそうだ。しばらくなでていたら突然「ユ、キ、ト…」と名前を呼ばれた。


「今のは…ルリィか?お前しゃべれるのか?」

「ユキ、ト…。ユキト…!ユキトッ…!」


 ルリィがしっぽを振りながら名前を連呼した。


「これもルーンフェンリルの能力か…?」

「そう……!」


 ユキトの呟きにルリィが答えた。


「おおっ!すごいな!会話もできるのか。地球人の夢が叶うなんてな。ペットと話せるとか。…そうだ。なあ、ルリィ。おれが名付けた月影って技はどう思う?」

「良い…。ルリィ、好き…!」

「そうか。なら良かった…」

「ユキト…」

「なんだ?」

「ユキト、と…寝たい」


 ユキトはルリィの突然の告白に驚いた。


「まあ…ペットと寝ることはあるけど…。ここの宿が動物と寝ていいか分からないから今日はごめんな…」

「残念…。でも、いいよ。ルリィ、我慢、する」

「野宿することがあったら一緒に寝ような」

「うん…!」


 ユキトは伸びをして「明日は陸上船か…」と呟いた。


「りく、じょう、せん…?」

「そう。陸上船。陸を走る船みたいなものかな…?」

「船…?水の上、動く、乗り物」

「そうだよ。よく知ってるな!」

「頭に、浮かんだ…」

「記憶を共有できるのか…」

「分からない…」

「まあ、いいか。じゃあルリィもおやすみ」

「うん。おやすみ」


 ユキトはルリィを指輪に戻して眠りについたのだった。

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