第10話if 稼ぎ方が釣りじゃなかったら…
トルメの町に着いてガラの悪い男たちをビャッコが倒してしまった後、ユキトたちは南側に向かって進んでいた。道に人が増え始め鮮魚店が何件もある通りを行く。
「あれは無いか?あると良いんだけどなぁ…」
呟くユキトに反応したのはメリザだった。
「何か探してるの?さっきから」
「いや情報と言うか、依頼が書いてある紙を貼ってる場所はないかなと思って」
「情報屋とか?」
「情報屋とは違うんだよな…ギルド…みたいな」
ユキトがぽつんと言ったことにメリザは反応した。
「ぎる、ど…は分からないけど、リクエストベースって所にあるかも。ほらあそこ」
メリザが指差した所を見ると確かにリクエストベースと看板があった。
見た目は茶色い公民館のような建物で、人が出たり入ったり繰り返している。
「中に入ってみるか」
入口の扉をメリザが開けユキトはビャッコと一緒に入った。中に入るとメリザは扉を閉めてユキトたちと合流した。
中はテーブルや椅子が点々と置いてあり、受付のようなカウンターがあった。そして壁には紙がたくさん貼ってあった。おそらく依頼が書いてある紙だろう。
ユキトは依頼の紙が貼ってある壁から少し離れて回し見た。魔物討伐やら荷物運び、その他雑用の依頼があった。その紙にAからEまでのアルファベットが書かれていた。これはおそらく依頼の難易度を表している。難易度Aには赤い文字がたくさん書いてあり、おそらく一番難しいようだ。だいたいは書かれている内容で難しさは分かる。
メリザとビャッコにはそれぞれやってみたい依頼を持ってきてもらうことにした。
早速ビャッコが紙を持ってきた。
「これどう?お花摘み!花を届けてほしいっていうのは」
「うーん…花摘みか…仄々(ほのぼの)とするけど、もうちょっと動くものとかがいいかなぁ」
「えー、良いと思ったんだけどな…じゃあ、違うの持ってくる」
ビャッコはそう言うと次の紙を探しに行った。
ビャッコと入れ替わりでメリザが紙を持ってきた。
「これは?」
ユキトに紙を渡した。
「えーっと…海にいるミミックシェルを五十匹持ってくるって、五十匹って多いな!その割に難易度Dかよ…」
「これも駄目?」
「そうだな…さすがに五十匹はきついよ…」
「ユキトならどれにする?」
「おれなら、そうだなー…難易度Bの洞窟の奥の魔物討伐かな…報酬がカリビアンソードっていう剣で、なんか売れそうじゃないか?」
「そっか、お金稼ぎたいんだっけ。…良いんじゃない?私も最低限のお金しか持ってないから稼ぎたいし」
ビャッコがまた紙を持って戻ってきた。
「これはどう?」
「悪いなビャッコ。もうほぼ決まったよ」
「にゃーん…残念…」
「がーんを猫語で言わなくていいよ…」
ビャッコがより猫背になっていった。
「おれはビャッコを頼りにしてる。だから魔物討伐も力を貸してくれ!」
「ふふ、嬉しいな!あたし頑張っちゃうよー!」
ユキトはビャッコの扱いに慣れてきたようだ。
ユキトが受けようとしている依頼は、難易度Bのフレイ洞窟と言う場所の奥にいる魔物を討伐することである。その魔物が洞窟に鉱石を採りに来た人たちを襲うので困っているという。報酬はカリビアンソードという剣一つ。いかにもお金になりそうな名前だ。
その依頼書を受付に渡し依頼を受けることにした。受付まで行くと少年のような見た目の人が立っていた。ユキトは依頼書を受付のカウンターに置き、声をかけた。
「この依頼を受けたいんだけど…」
「やあ、初めて見る顔だね!ぼくがここの受付のレイニだよ!こう見えても女だから間違えないでね」
レイニはスーツのような服を着てハート型のネクタイを付けている。
「男にしてはかわいらしい顔をしていると思ったら、やっぱり女の人か」
後ろでメリザとビャッコは驚いているが…。ユキトはうっすらと気付いていたらしい。
「かわいいだなんて、君もお世辞がうまいね!」
と言いつつレイニは満更でもないようだ。
「それはそうと、この難易度Bの依頼ね。一度冒険者が挑んで失敗してる依頼だよ!それでも受けるかい?」
「ああ。この報酬のカリビアンソードは売れるかな?」
「ぷふっ!もしかして報酬のためにこの依頼を受けるのかい?君面白いね!確かに君たちはただの冒険者に見えないけど、一応これは決まり事項だからね」
レイニは机の下から紙とペンを出した。
「これは同意書でね、君たちが死んじゃってもこっちは保証できないよって意味の契約書なんだ。難易度B以上の依頼だけこれを書くことになっているんだ」
「大丈夫だ!こっちがやろうとしてることだから、それぐらいは受け入れるよ」
「ごめんね…でも、達成できたらちゃんと報酬は渡すからね!」
「分かった」
ユキトは同意書にサインした。
「では、健闘を祈ります」
ユキトたちは魔物がいる洞窟に向かうことになった。
トルメ東に五キロ行った所にフレイ洞窟はある。洞窟の入り口には二つの柱が岩の壁にくっ付いていた。
「そうだ。そう言えば松明(たいまつ)みたいの忘れたな」
「あっ、それなら大丈夫!」
メリザは右の手の平を上に向けると魔法を唱えた。
「赤火魔法、レッドエレメント、ランタン」
魔法を唱えると赤い火がふわふわと宙に浮かんで留(とど)まった。
「これは動くと付いてくる灯りの魔法なの」
「すごいな。火の魔法は便利だな」
ユキトたちは早速中に入った。中は点々と壁に灯りが付いていた。ただ、あまり明るくはない。メリザの魔法があってよかった。
おそらくこの壁の灯りを辿って行けば、依頼の魔物に会えるのではないかと思う。だから、ユキトたちは早く進んだ。道はあまり整っていないので車いすがたまにガタンとなる。が、あまり気にはしなかった。
半分ぐらい来たと思う。ここまで魔物に会うことはなかった。このフレイ洞窟は、鉱石などを採る人たちのために作られたと言っても過言ではない。だから魔物はすべて駆逐されたはずだった。例の魔物だけがなぜか住み着いてしまったが…。
三方向に枝分かれした道に出た。ユキトは迷わずまっすぐを選んだ。当たりだった。
開けた所に出ると奥の方に大きな魔物がいた。ユキトは身体強化魔法をあらかじめかけておいた。
ユキトたちが近づくとその魔物も動いた。灯りでうっすらと姿が見えた。しっぽの先が丸い玉のようになっている巨大トカゲだった。体は青っぽくしっぽの先の玉だけ白だった。
ビャッコが虎化(とらか)して飛び出していった。虎化した爪で引き裂こうとすると巨大トカゲが急に消えた。
「あれ?どこいった?」
ビャッコが見失っていると後ろに巨大トカゲが出現した。
「――ビャッコ後ろだ!」
ビャッコは巨大トカゲのしっぽに吹き飛ばされた。壁にぶつかりそうになるとしっぽで防いだ。
「なんで?後ろにいるの?」
「ビャッコ気を付けろ!あいつはいきなり消えて現れたぞ!」
「何それ。つよっ!」
巨大トカゲはユキトたちの方に飛びかかってきた。ユキトたちは下がってかわした。かわした後すぐにユキトは巨大トカゲに右手パンチを繰り出した。右手パンチは当たる直前にすり抜けた。すり抜けたというより高速でかわしたように見えた。加えて下方向に動いたようにも見えた。
また現れてユキトをしっぽでなぎ払った。ユキトは両腕で防いだ。魔法のおかげで痛みはなかった。
「なあメリザ。あのランタン何個も出せるか?」
「うん。出せるけど何で?」
「確かめたいことがあるんだ」
そしてビャッコにも「あいつを引きつけておいてくれるか?」と頼んだ。
「おっけー!任せて」
メリザは赤火魔法でランタンを五個くらい出した。開けたその場所は明るくなって普通に巨大トカゲが見えるようになった。ビャッコの動きも良くなったように見える。
また巨大トカゲが下向きに消えた。ビャッコはきょろきょろしている。
ユキトが「ビャッコ、後ろに攻撃だ!」と叫んだ。
「にゃっ!」
ビャッコがユキトに言われた通りに後ろ向きに爪攻撃を繰り出すと、なんとちょうどそこに巨大トカゲが現れた。爪に当たりしびれて動きが止まった。
「何で分かったの、ユキト?」
メリザが当然のことを聞く。
「影だ。見てくれあいつを。あいつは消える時に影に身を隠してるんだ。だから急に消えたように見えたんだ」
「ほんとだ!さっきは薄暗くてあまり見えなかったけど、ランタンを増やしたおかげではっきりと見える」
「ああ。巨大トカゲには悪いがもう終わらせてもらう!」
そう言うとユキトは車いすの手でこぐ部分、ハンドリムを握り巨大トカゲに突っ込んでいった。車いすがぶつかりそうなところで右拳を前に出した。
「フィストーーッ!!」
しびれて動けなかった巨大トカゲに当たって剛速(ごうそく)で吹き飛び、岩の壁に当たって動かなくなった。息絶えたというべきだろうか。それからすぐに分子化して消えた。その場にはしっぽの先の玉だけが残った。
「やったねユキト!」
メリザはユキトとハイタッチした。
「あたしもあたしもー!」
ビャッコが前のめりにハイタッチしてきた。そしてそのまま両手をつかみ上下にぶんぶん振った。身体強化していても劣らない力だ。ユキトは無表情で受け流した。
その後、洞窟を後にした。
リクエストベースに戻るとレイニが温かな表情でたたずんでいた。
「依頼終わったよ。これが戦利品だ」
と言って、巨大トカゲのしっぽの白い玉を受付のカウンターに置いた。
「さすがだね!やっぱりただ者じゃなかったね。同意書は必要なかったかも」
「ちなみにあの巨大トカゲに名前はあるのか?」
「シャドウルスって言うんだ。言い忘れてたよ、ごめん…」
「なるほど。シャドウって付くから影に隠れたのか」
「この戦利品はもらうね。じゃあ…」
レイニはテーブルの下から報酬を取り出した。
「これが報酬のカリビアンソードだよ」
カリビアンソードは鞘(さや)に入っていてS字に波打ち、先の方の幅が広くなっている。まさに海賊の剣だ。ユキトにとって、もらった剣は使うのではなく売るための剣だ。武器に使うつもりはない。
「ありがとう、レイニさん!」
「さんはいらないよ。君がかわいらしいって言ってくれたからね」
「やっぱり嬉しかったのか」
「ふふっ」
レイニは笑ってごまかした。
「ちなみにこの剣を売ったらいくらかな?」
「そうだね。…四千、いや五千ラウかな」
「そうか。参考になったよ。じゃあもう行くよ」
「ああ。また来てね」
レイニは手を振りユキトたちを見送った。
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