第14話 橙色の髪の少女

 ユキトたちが陸上船ランドシップに乗ってから、他の客が乗るまで待つと出発した。


 静かに動く陸上船の中は広々としている。色としては茶色いつるつるした木のようだった。外の金属感とは裏腹に落ち着く内装だ。

 居心地は最高と言ったところか。とても懐かしい。ユキトは一度しか乗ったことないが、この感覚だけは忘れない。電車に似ていた気がするが、夜行列車の方が似ているかもしれない。車両は真ん中が通路でその両脇に個別の部屋がいくつもある構造になっている。ユキトが転移してから唯一の安心感がここにはある。


 ユキトたち三人は二両目から乗り込み、先頭にいる陸上船の船長レイジーンの所に向かった。そして、二両目と一両目の先頭車両をつなぐ扉の前に来た。


「ユキトです。入ってもいいですか?」

「どうぞ!」

 と、レイジーンの声がしたので入った。


 先頭車両は前方に広いスクリーンのような窓があり、船である証拠の舵(だ)輪(りん)をレイジーンが握っている。


「やあ、来たんだね!どうかな船内は?」

「気に入りました!おれ好きです、陸上船」

「気に入ってくれて良かったよ!ノスタル大国までの長旅、楽しんで行ってね」

「あの…あれって何ですか?」


 ユキトは先頭車両の扉側にある、大きな四角いタンスのような箱を指差した。箱と言っても金属だが…。


「あーあれね!あの箱はマジックコンデンサーと言って、魔力を貯める器みたいなものだよ!これに魔力を流して貯めることで、自分の魔力を使わなくてもものを動かせるんだよ。興味があるのかな?」

「多少機械を触ってたもんで、興味がありました」

「そうか、それはすごいね!中々聞かれることがないから僕も説明を張り切ってしまったよ」

「ありがとうございます。…それじゃあ、また後で会いましょう。中をもっと見て回りたいので」

「分かったよ、また後で!」

「どうも」

「後でねー!」


 ビャッコだけは手を振って先頭車両を出た。


「さっきのユキト、目がキラキラしてたね!機械好きなんだね」

「この世界に来る前にしょっちゅう使ってたからな」

「そうなんだ。私は機械系はさっぱりだよ。すごいね!ユキト」

「ユキトっちすごーい!」


 ビャッコが思ってもいない合いの手を挟んだ。


「ビャッコ、分かってて言ってるのか?」

「うん。あたしは触ったら壊しちゃうから、ユキトっちはすごいなーって」

「それは機械が苦手なのか、魔法流しちゃうのかどっちだ?」

「うーん…どっちも!」

「大変だったんだな、ビャッコも」


 今ユキトたちは一両目から二両目方向に通路を進んでいる。


 一番後ろの六両目まで行くと、外に出られるようになっていた。扉を通り外のはみ出た部分に出た。そのはみ出た部分はまあまあの広さで、テーブルと椅子が一個ずつ置いてあった。さらに金属の柵で落ちない様になっている。


 そこの椅子に少女が座っていた。

 少女は黄色い半袖の上からオーバーオールスカートを着ている。橙色の髪は二つ結びの三つ編みで、先が蟹の爪のようになっている。

 その少女はユキトを見るなり話しかけてきた。


「車いすの人を見るのは初めてだなー!」

 と、明るい声で言った。


「どうして車いすなの?病気なのかな?」

「ちょっと事故でな。そういう君はここで何を?」

「外の景色を見てたんだよー」


 急に話にビャッコが割り込んできた。


「あなた名前は?あたしはビャッコだよ!」

「ふふっ」


 少女は笑って椅子から立ち上がった。


「わたしは、ぎぎぎぎ…ギロッタでーす!」

 ギロッタと名乗った少女は笑顔で右手ピースした。


「おれはユキトだ。それとこっちはメリザだ」

「よろしくね」

「ユキトっちとメリちゃんだよ!」

「仲良しかな?仲良さそうだね。楽しそうだねー!」


 ユキトたちはしばらく外の景色を見ていくことにした。

「いい景色だな。海が見えて」

「そうだね!わたしも海好きだねー。泳ぐの好きだねー」

「話は変わるけど、おれたちはノスタル大国に行こうとしてるんだ。ギロッタはどこに行くんだ?」


 ユキトが聞くとギロッタは目をパチパチさせた。


「わたしも同じとこだよ!一緒だねー。ユキト君たちは何をしに行くの?」

「おれたちは調べたいことがあって、大図書館に行くんだ」

「大図書館ね。わたしは本を読むのは得意じゃなくて…でも、ほんとに大きい図書館だよ!見たらすぐ分かるよー」

「そうか。教えてくれてありがとう!」


 ユキトとギロッタが話していると音が鳴ってレイジーンの声が聞こえた。

「間もなく、岩で塞がれた道を通りますが、揺れることはないのでご心配はいりません。では、引き続き船旅をお楽しみください」


 放送が終わるとユキトは「揺れないのか…」と呟いた。

「そうだね。船長さんの魔法で岩をどーんってやるのかな?どうなのかな?」

「風魔法か…。すごいな、レイジーンさんは」

「船長さんと知り合いなのかな?顔が広いんだね、ユキト君は」

「ユキトっちは顔おっきくないよ」


 メリザの隣で金属の柵につかまりながらビャッコが言った。


「違うよ。顔の大きさじゃなくて、知り合いが多いってことだね」

「悪いな、説明させて…」

「いいんだよー。ビャッコちゃんは難しい言葉があまり得意じゃないんだね。でも気にしなくてもいいよ。得意不得意は誰にでもあるからね!」


 話が終わると金属の柵に両手を乗せていたメリザが声をかけた。


「そろそろ中に入ろうか」

「ああ。じゃあギロッタ、またどこかでな」

「うん。ユキト君、メリザちゃん、ビャッコちゃんもまたね!元気でね!」

「ばいばーい!」


 ビャッコとギロッタが手を振り合い、ユキトたちは車両内に戻った。

 ユキトは二両目の部屋を選んだので、再び二両目まで戻る。陸上船は揺れが少ないのが特徴だ。つなぎ目はあるのだが、何らかの方法で揺れないようになっている。レイジーンの風魔法も影響を及ぼしていると考えられる。何にせよ高性能ということは確かだ。


 ユキトたちは二両目の部屋に着き中に入った。

 部屋の中は長椅子が二対あって四~六人座れそうだ。


 ユキトは車いすから降りて長椅子に座ることにした。車いすから手をついて長椅子に移った。その後車いすを指輪に変形させて右手の中指にはめた。窓際に移動したユキトの隣にメリザが座り、「ずるいずるい」と言っていたビャッコは仕方なくユキトの前に座った。


「ギロッタは変わり者な感じしたな」

「ギロちゃん服かわいかったねー!」

「そう言えば、ビャッコも服着る時あるのか?」

「うーん…着てた、かな。小さいときはいろんな服着てたよ!ワンピースとか、ドレスとか…あと、メイド服とか?」


 ユキトがいきなりブッと噴(ふ)いた。


「メ、メイドが存在してるのか…そうだよな。よーく考えればいてもおかしくはないよな。ビャッコは小さい頃から着てたのか、そのメイド服?」

「うん。でもすぐ脱いじゃった。だって、走りにくいんだもん」

「ビャッコらしいな。いつか、服を着たビャッコも見てみたいけどな」

「うん。ユキトっちが言うなら見せてもいいよ!」

「待って!」


 メリザが急に話に入ってきた。


「それでどこから服着ないようになったの?」

「うーん…細かくは覚えてないけど、十年くらいはこのままだよ」

「すごいね。私だったら服着てないと落ち着かないけどね」

「あたしは雷雪ビキニが普段着なんだ」


 話が終わると間を空けてユキトが言った。


「もう一時間は経ったか。海が見えなくなったな」

「そうね。もうすぐ着くんじゃない。どんな所なんだろうね」

「ばーん、どーん、みたいな感じじゃない?」


 ビャッコが手を広げて表現している。


「すごい適当だな…。でも案外当たってるかもな」

「でしょ!楽しみ楽しみ!」

「ええ。でも、楽しむんじゃなくて図書館に行くんだからね!」

「そうだった!」


 メリザに釘を刺されたビャッコであった。

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