第13話 協力プレーと討伐の報酬
車掌の出で立ちの陸上船ランドシップの船長レイジーン曰(いわ)く、トルメから少し西に行った森の中にその魔物はいるようだ。
船路を塞ぐ魔物とはどんなやつなのだろうか。ゲームとかで見る大きい鬼のような魔物だったらちょっと嫌だな…。
これは異世界というか、ゲームあるあるだろうか。RPGをゲームでやるとどんなに大きい敵でもさほど怖くはないが、これがリアルなゲームだとどうだろうか。自分より倍以上の大きさの動く生物が目の前にいたとしよう。その瞬間、恐怖と逃げる気持ちが混在し、“死”という状況を脳裏に焼き付けさせる。
やっぱり逃げたいよな…。ただ、それは普通の人だった場合だ。今のユキトには魔法という武器がある。魔法は心強い。ましてや、ユキトの魔法は身体強化である。自分に魔法をかけ体を丈夫にできる。だからちょっと攻撃されたくらいではびくともしない。
“死”は魔力が無くならない限り考える必要はなさそうだ。
魔物退治までの静寂を切り裂くように優しい声が響いた。
「ねぇユキト。焦ってない?私の思い違いだったらいいんだけど…」
「大丈夫だ!と言っても半分くらいだな。早めに倒した方がいいかなとおれは思っただけだよ。でも、今すぐノスタル大国に行きたい訳じゃないから気持ちとしては複雑だな」
「そう、それならいいんだけど。無理してないかなと思って」
それは、おれがメリザに言いたいことだな。てことはお互いに気を使ってた訳か。ユキトはにこりと笑った。
「まあ、三人で協力して倒そうな!今のおれには二人がいるから怖いものなしだな」
そう言うとビャッコがユキトの腕を掴んできた。
「頑張ろユキトっち!」
「ビャッコ、腕掴まれるとこげないんだけど…」
そのやり取りをメリザが優しく見守った。
森の中を進んでいると開けた場所が見えてきた。
そこに魔物の気配がある。高い柱のようなものが四本あり、その上には屋根のようなものが乗っかっている。屋根というより球体のような体と思われるものから脚が四本生えている巨大な蜘蛛(くも)と言ったところだろうか。その蜘蛛はじっとしていて動かない。どうやら眠っているみたいだ。
しかし、ユキトたちの接近に気付き目を覚ました。ユキトたちはその魔物の少し前で止まった。しばらく沈黙のにらみ合いをした後、声が聞こえた。
「誰だ、お前たちは?」
その魔物がしゃべったようだ。
「お前が人を困らせてるって聞いて倒しに来たんだ。やめるなら倒さないで済むんだが、どうだ?」
「このマルチフッド様に向かってお前だと!許せん!俺は人を困らせるのが好きなんだ。だからやめない!お前たちも倒してやる!」
この返しを予想してユキトは魔法をいつでもかけられるようにしていた。
「クリ―チャーブースト、セルフ!」
ユキトの身体を膜のような光りが覆い、ユキトの能力が上がった。
マルチフッドの一本脚が迫ってきた。ユキトは車いすを軽くこいでかわした。魔法のおかげで力が半分で済む。
メリザは後ろに転がってかわし、ビャッコは四つん這いに近い格好で飛び上がった。
一番先に動いたのはビャッコだった。しっぽを地面に立てて空中に飛び上がった。
「やぁーー!」
空中から雷雪弾を放ちまくった。マルチフッドは脚を横に動かして全て防いだ。
「そんなのは効かん!」
ビャッコはマルチフッドの脚になぎ払われた。かろうじて地面に落ちる前にしっぽで衝撃を和らげた。
ビャッコが初撃をしている間、メリザは攻撃準備をしていた。
「レッドエレメント!」
腰から抜いた剣レッドスウォードに魔法をかけた。すると剣が炎をまとって燃え出した。実際には燃えていないが、炎のような光が剣の周りにくっついた感じだ。
その炎の剣でマルチフッドの脚を攻撃した。だがその脚は硬く、全く切れそうにない。
次の瞬間、メリザはマルチフッドの脚に蹴られた。蹴りは何とか剣で防いだが、後ろに飛ばされた。ちょうどそこにいたユキトがメリザの背中をかばうように支えた。車いすは滑っていき途中で何とか止まった。
「大丈夫かメリザ?」
「ありがとうユキト!脚が硬くて全然切れなかった。どうしたらいいの…?」
その間にもビャッコはマルチフッドの脚をかわしてやつの気を引いている。
「おれに考えがあるんだ。協力してくれるか?」
メリザはこくっと頷(うなず)きユキトの作戦に協力することにした。
ユキトはビャッコに向かって叫んだ。
「ビャッコ!そいつを転ばせてくれ!」
ビャッコはユキトに気付くと「にゃあ!」と返事をした。それからマルチフッドに手を向けて、頭上に雪の塊を出現させた。雪の塊はマルチフッドの体の部分に乗っかり、高かった身長を低くさせた。
間髪を入れずユキトとメリザが攻撃を仕掛ける。メリザは炎をまとった剣を振り上げ、ユキトは車いすを全力でこぎ突進する。
そして、同時にマルチフッドの顔に攻撃をした。
「はあーーっ!!」
メリザはマルチフッドをひるませた。
「フィストーッ!!」
ユキトの拳はマルチフッドの顔面に当たり吹き飛ばした。
「ぐわーーっ!!」
飛んで行ったマルチフッドは木に当たり動かなくなった。その後しばらくしてマルチフッドは分子化して消え去った。
ユキトたちは協力してマルチフッドに勝利した。ビャッコは疲れたのか地面に座り込んだ。ユキトとメリザはゆっくりビャッコの元へ行った。
「ふにゃーっ、疲れたー」
「魔力を使いすぎたんじゃないか?」
「うーん…いっぱい雪出したからかも…」
魔法は魔力を使って発動する。だが、その魔力が少なくなると疲れや倦怠(けんたい)感が出てくる。
ビャッコの場合、最初に何発も放った雷雪弾と雪の塊で魔力が少なくなり、疲れが出たようだ。
「少し休んでから戻りましょう」
メリザの提案に反対する者はいなかった。
ユキトたち三人は少し休んでからトルメの町に戻ることとなった。
森を抜け船路沿いを進むとトルメの町に入ることができる。一時間ぐらいで戻ることができた。陸上船の船長レイジーンの所へ報告をするために向かっている。
ステーションに着くと、ちょうどレイジーンが立って待っていた。ユキトたちのことが気になっているのだろうか。少し心配そうな顔をしていた。当然の反応だ。いきなり旅の人たちが魔物討伐に行こうと言ったのだから。
しかも、見ず知らずの人たちで戦えるのかどうかすら分からない。だがレイジーンはユキトたちに自信がありそうだから、魔物討伐をお願いした。結果的にそれは正解だった。ユキトたちが帰って来たからだ。ユキトたちを見ると顔が明るくなった。
「やあ。戻って来たということは…」
ユキトは親指を立てて「ちゃんと退治してきました!」と明るく言った。
「良かったー。怪我はないかい?」
レイジーンがユキトたちを見回したのを見てユキトが答える。
「みんな無事です」
「そしたら何かお礼をしなきゃね。何がいいか決めたかい?」
「物じゃなくてもいいですよね?」
「物じゃない?それじゃあ何が欲しいんだい?」
「決まってますよ。陸上船に、タダで乗せてもらえませんか?」
まさかのお願いにレイジーンは驚いたがすぐに笑顔になった。
「それならいくらでもいいよ!君たちは恩人だからね、それぐらいのことならおやすい御用さ!」
「ありがとう!レイジーンさん」
「じゃあすぐに準備するからね」
そう言うとレイジーンは、陸上船ランドシップが停まっているステーションの後ろの方へ向かって行った。
風の魔法を使うと船路の上にあった船体が持ち上がり、地面から浮き上がった。そして、ユキトたちがいる方まで進んで止まった。
陸上船は一番前だけ船の形をしているが、そこから後ろの五両は電車を横に少し広げたような形である。
全体としては暗い青色を基調として側面に白い一本線が入っている。ほぼ電車にそっくりである。
しばらくすると人が少しずつ集まって来た。
どうやったのか分からないが、魔物が倒されたことが知らされたようだ。
そして、レイジーンは浮かんで止まっている陸上船から降りてきてユキトたちに言った。
「さあ乗ってくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます