第11話 ユキトと夜這い猫
少し夕焼け空になってきた。
ユキトの魚釣りが終わりこの後どうするか話していた。
「えー!おっきい魚食べられないのー?やだー」
「頼む我慢してくれ!小っちゃい方だとあまり売れないと思うんだ」
「ビャッコ、その代わり売ったお金で他の魚を買えるよ!」
ユキトとメリザがビャッコをなだめた。
「うーーん………。分かった、大きいのは我慢する。でも他の魚買ってね!」
「よし。そうと決まれば売りに行こう!」
ビャッコは意外にもあっさり承諾した。
再び鮮魚店がある通りに向かう。ユキトたちは、あの釣竿をくれた親切な店主の店で魚を売ることにした。
「いらっしゃい!…ってさっきの兄ちゃんたちじゃないか!どうしたんだ?」
「実は売りたい魚があって…ここで売らせてもらえないかな?」
「そうか。言ったもんな、魚は売ることができるって。いいよ!どんな魚だ?」
店主が許可したのでユキトはビャッコを呼んだ。
ビャッコは両手で持っていた巨大魚を店主の前にどーんと置いた。
「よいしょ…!じゃーん!!」
店主はその大きさに目が飛び出しそうになっていた。
「こいつはでかい…!しかもめったに釣れないレア魚、ロックブラックマクスターじゃないか!どこでこれを…?」
「西の桟橋だ。そこでウィークフィッシュを四匹釣った後に釣れたんだ」
「くっ……欲しい。これはいくらで売ってくれるんだ?」
店主は相当欲しいようだ。
「いや…おれは商売のことは分からないから、そっちが買いたい金額でいいよ」
「本当か!そしたらなぁ……五千でどうだ?安いか?」
「それで十分だ!五千ラウあれば当分は大丈夫だからな」
「恩に着るよ兄ちゃん」
交渉が成立すると、ロックブラックマクスターと千ラウ札を五枚交換した。
交換したお金から千ラウ札を使い、大きめのウィークフィッシュを二匹買った。一匹百ラウだったので二百ラウかかり八枚の百ラウ硬貨が戻って来た。
さらに店主に許可をもらい店先で焼いて食べることにした。
小さいウィークフィッシュ二匹をそれぞれユキトとメリザで分けて食べ、残りの小さいのと大きいのを二匹ずつビャッコが食べることになった。
「美味しいな!釣ったばかりだから身が締まってるんだな、きっと」
「うん。焼き立ては最高ね!何も付けなくても美味しい!」
ビャッコは焼けたのに中々食べようとしない。
「どうしたんだビャッコ?まさか猫舌なのか…?」
「…にゃあ、そうだった。あたし熱いもの食べられないんだった…」
「冷ましたら食べられるんじゃないか?」
ユキトが提案すると、ビャッコはしつこいぐらいに息を吹きかけ冷ました。そして魚にかぶりついた。
「あふっ、あつっ…あるっ、はふはふ…はー、うぉおいしい!」
「食べられたじゃないか。あんまり早食いするなよ、のどに詰まるぞ」
「ふふっ。ユキト、母親みたいなこと言ってる」
「そうか?単にのどに詰まったら困ると思ったからだけど」
そんなことを話しながら、ビャッコが魚を食べ終わるのを待つユキトとメリザだった。
ビャッコは四匹のウィークフィッシュをあっという間に食べてしまった。ユキトが心配していた、のどに詰まることはなかった。ユキトの忠告を守ったようだ。
魚を食べ終わった後、次の本題を店主に聞くことにした。
「なぁ、どこかに安い宿はないかな?」
店主は少し考えると何かを思い出したようだ。
「ここから少し南に行くと、小さいが気配りがいい宿があるな。値段も一人百ラウだ」
百ラウか、イワシと一緒だな。…って現実で考えたら相当安いな。安いどころじゃない、安すぎだ。大丈夫だろうか?少し心配だが安いに越したことはない。
「じゃあそこに行ってみるか!色々とありがとうな!またよろしくな」
「今後ともごひいきに!」
「じゃあねー!」
メリザは頭を下げてユキトたちと共に宿を目指す。
鮮魚店通りに灯りが点き始めた。もう日は暮れてしまった。店もほとんどが閉まっている。
ユキトたちは親切な店主に言われた宿らしき所に着いたようだ。灯りだけが照らしているがこれは一軒家ではないだろうか…。二階建ての家を少し大きくした感じだ。
メリザが扉を開けて三人は宿の中に入った。宿の中は受付のような所があり、一階部屋と二階部屋がいくつかあるようだ。
受付に向かうと女の人が笑顔で迎えた。
「ようこそ。今日は何人でお泊りでしょうか?」
「三人で二つの部屋をお願いします!」
「分かりました。では何日お泊りでしょうか?」
「明日の朝までで」
「はい。お先に支払いをお願いします。三人で三百ラウです」
ユキトは百ラウを三枚出して受付の人に渡した。
「確かに三百ラウいただきました。一階のあちらの二部屋をお使いください」
ユキトたちはひとまず片方の部屋で次の日のことを話し合うことにした。
「明日は…陸上船ランドシップに乗って、ノスタル大国に行くんだよな」
「そう。ノスタル大国の大図書館で本を探すのがとりあえずの目標だね!」
「ノスタル大国なら一回行ったことあるよ、お姉ちゃんと。図書館も大きかったなー。あたしは本読まないんだけど、お姉ちゃんがかなりの本読んでたよ!」
ビャッコは懐かしがっている。
「本が好きなお姉さんなんだな」
「うん!記憶力もすごいから本の中身も覚えちゃうんだよ!!」
「そうか」
メリザは座っていた椅子から立ち上がった。
「じゃあそろそろ寝ようか。ビャッコ行くよ!」
ビャッコに一緒に隣の部屋に行くように促した。
「えっ、ユキトっちと一緒に寝れないの?なんでなんで?」
「いやなんでも何も、男女が一緒の部屋で寝たらあれでしょ!」
「あれって何?あたしはユキトっちとただ寝たいだけだよ」
「あなたは裸も同然なんだから同性の私と寝ないとね」
ビャッコは不機嫌そうだ。
「ユキトっちはどうなの?あたしと寝たい?」
おれにきたか。
あたしと寝たい、とか言われたこともないけど…。それって恋人がする会話なんじゃ…。普段からほとんど自分でできるからな。メリザも多分おれのことを心配しているが自制している。
ビャッコはただ純粋に寝たいだけだ。不純な動機はない。むしろおれやメリザが不純なのではないかと思うぐらいだ。
「おれは一人で寝るよ。色々気を使うしな。悪いなビャッコ」
「ほら行くよビャッコ!じゃあユキト、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
ビャッコの不満な顔だけが残像を残した。
皆が寝静まった頃、密かに動く者がいた。
部屋を抜け出し隣の部屋に潜り込んだ。静かにドアを閉めると、その部屋の人が寝ているであろうベッドまで近付いた。
そして掛け布団をはがしたがそこに人はいなく、枕でカモフラージュされていた。急に部屋の灯りがついて侵入者は声をかけられた。
「やっぱり来たかビャッコ」
侵入者はビャッコだった。
「ぎくっ、ユキトっち…!?なんで来るって分かったの?」
「さっき未練を感じて部屋を暗くして待ってたら本当に来たからな。まぁ勘だったけど…」
ユキトとビャッコが話していると部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「ユキトちょっと入ってもいい?」
メリザの声だった。
「ああ入ってくれ」
メリザは部屋に入ってきて「ビャッコ知らない?部屋にいなくて…」とユキトに聞いた。
そして、視界の隅に夜這い猫のビャッコが写った。
「あー、ビャッコここにいたのね!駄目って言ったよね!」
メリザは怒っている。ビャッコは静かにメリザを見た。
「ごめんなさい…どうしても一緒に寝たくて…」
「それは分かるけど今日ぐらいはおとなしくした方がいいんじゃない?そもそも――」
メリザはビャッコを正座させて説教を続ける。
その日の夜は長くなるのだった。
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