第6話 もう一つの魔法

 修練場での練習を終わらせたユキトは、壊した木の的を換えてもらいメリザと外に出た。


 それから魔法館の東側に向かった。東側に行くとマージが言っていた大きな扉があった。

 大きな扉の前に来ると威圧感を感じた。正確に言うと大きな扉だからというのもあり、強い敵を前にしているような感覚があった。


 メリザは恐る恐るその大きな扉を開けた。部屋の中は普通だった。

 何が普通かは言い表しにくいが、散らかっている訳でも、きれいな訳でもない部屋だ。


 ユキトとメリザは少し奥に進んだ。するとようやく部屋の全貌(ぜんぼう)が見えてきた。

 奥の方に大きめの机が置いてあり、その上に書類や本やらが積み重なっている。

 中央より少し離れた所の床に魔法陣が描いてあった。おそらく、何かに使うものと考えられる。

 そして、本棚にはぎっしりと本が並べられている。ここにいるスザクという人は読書が好きなのだろうか。


 とユキトが考えを巡らせていると、少し薄暗い部屋の奥からそれらしき人が出てきた。


「やあ、何か用かい?」


 スザクが近くまで来るとその格好が変だということに気が付いた。

 黒い包帯を体中に巻き、赤い眼帯を右目に付けている。言ってしまえば…である。


「…へ、変態!?なの?」


 言ってしまった、メリザが。おれが思っていたことをはっきりと…。いや、実際そうだとしか言いようがない。

 おれも正直スザクと聞いてもっとかっこいい人が出てくると思いきや、包帯男だったとは…。予想外すぎて驚けなくなっている。


「変態かぁ…まあそう思うよね。みんな似たような反応だから慣れちゃってるんだよね」

「あんたが、いやあなたがスザクさんですか?ここに来れば召喚魔法を教えてくれるって言うから来たんですけど…」

「へぇー、君も召喚魔法を使えるのかい。お互いに珍しいね!」


 スザクが友達のような眼差しを向けている。


「あっ、そうだ!一応ここの紹介をしとくね。ここは召喚の館(やかた)、僕と君みたいな召喚魔法を使う人のために作ったんだ!主に召喚獣と契約する場所だよ!僕がここの主(あるじ)のスザクでーす。よろしくね!」

「おれはユキトです」

 メリザは少し引き気味に「メ…メリザです」と答えた。


「早速だけどユキト君、まずは僕の召喚魔法を見ててね!」


 スザクはそう言うと右手を前に出して「ブラッディサモン…!」と唱えた。

 すると人差し指の指輪が赤く光り、光の球体となって空中に浮かび上がった。その赤い光は徐々に大きくなり、召喚獣らしき姿をかたどった。

 光が消えるとスザクの召喚獣が姿を現した。


 くちばしが金色、橙と黒色の羽が生えた鳥だった。だが普通の鳥ではなく、顔に黒い炎のような模様が付いており、頭に鋭い角が二本、曲線を描いて前に出ている。

 二つの足には鋭い爪があり、足首の部分に角が上向きに二対ずつ付いている。鳥にしては刺々(とげとげ)しい風貌をしていた。


「この召喚獣はホウオウガって言うんだ。僕はオウランって呼んでるよ!召喚獣は契約者の影響を受けるから似てるんだよ!どう?ユキト君」


 スザクはホウオウガのオウランをなでまくっている。オウランもキュワー、キュワーと鳴き、喜んでいるように見える。


「似てますけど…スザクさんはこんなに刺々してるんですか?」

 ユキトが単純なことを聞いた。


「うーん…そこはよく分からないんだけど、自分と真逆な部分も出るのかもしれない。ちなみに召喚魔法は、召喚の時と指輪に戻す時だけ魔力を使うからそこまで大変じゃないと思うよ!」

 ユキトがオウランをしばらく見ていると、スザクは「よし!」と言い自分に気合を入れた。


「次はユキト君の番だ!召喚獣と契約をしよう」

 ユキトは「何をすればいいんですか?」と聞いた。


 すると、スザクはどこかから針を持ってきた。


「この契約は血の契約でね、血を触媒とするから、君の血を採らせてもらうよ。少し痛いけど一滴だけでいいから」

「ああ、分かりました」


 スザクは持ってきた針をユキトの人差し指に刺した。出てきた血をガラスの入れ物で受け止めた。

「うん、ありがとう!じゃあ、早速契約を始めるね!」


 メリザが心配して見ていたが、ユキトは平気そうに人差し指をなめて血を止めた。


 スザクは床の魔法陣の一か所にユキトの血を垂らした。

 すると床の魔法陣の模様が赤く光った。光は持続し、魔法陣の中心に小さい動物が現れた。

 初めは子犬に見えたが、よく見ると耳はぴんと立ち、口は細く牙が鋭い。そしてしっぽは少し長い。これは紛れもなく狼だと言える。


「これが、召喚獣…」

 ユキトは目の前の光景に圧倒している。


「これは…おそらく、ルーンフェンリルだね!夕闇のような紺の毛並みに、しっぽは三日月のようで、夜になるとその輝きで道を照らすとも言われているんだ」


 ユキトが近づくと、子供のルーンフェンリルはユキトの膝の上に乗った。

 そして、きゃんきゃん鳴きながらユキトの顔をぺろぺろなめた。


「おい、やめろ。くすぐったいって!もういいよ!」


 ユキトはなぜか、動物に好かれる体質のようで、すぐ懐かれてしまう。

 まだ小さいというのもあるせいか子犬に見えてしまう。

 ルーンフェンリルだったのはユキトの犬好きが影響している。


「かわいい!私も触ってもいい?」

 メリザが触ろうとすると、ルーンフェンリルはメリザの手を甘噛みした。


「あれ…これって懐いてるのかな?」

「本噛みしてないってことは敵意は持ってないんじゃないか?」

「そうだ!せっかくだから名前を付けてみたらどうかな?その方が呼びやすいと思うよ!」


 スザクの提案に賛成し、ユキトは名前を考えることにした。


「そうだな…。うーん、ルーンフェンリルだから…。そうだ!ルリィはどうだ?どことなくメスっぽいし」

「うん。良いと思う!これから大事にしてあげてね」


 スザクはそう言った後に補足をした。

「それと、建物の中ではなるべく召喚しないようにしてね!驚かれたら面倒だし…」

「分かりました。色々とありがとうございます!スザクさん」

「うん!また困ったことがあったらいつでも来てね!あっ、ちなみに僕、四つ子なんだけど、どこかで兄弟に会うかもしれないからその時はよろしくね!」

「はい、覚えておきます」

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