第5話 強すぎじゃないか?
やっと落ち着きを取り戻したマージは、深呼吸して本題に入った。
「えっと、そしたら身体強化魔法は、この魔法の石に意識を集中させると使い方が分かるよ!」
マージはユキトに魔法の石を手渡した。
「それで、そのカーテンの向かい側の部屋が修練場になってるから、そこで魔法を練習してね!」
「ああ、分かりました」
ユキトは魔法の石をまじまじと見ている。
マージが再び話し出すと見るのをやめた。
「召喚魔法は、魔法館の東側にある大きめの扉の先にスザクって人がいるから、その人に教えてもらってね!…後は大丈夫?」
「大丈夫です!」
「じゃあ、頑張ってねー!今日は今までの中で一番楽しかったよ!ありがと。何かあったらお姉さんに相談してねー!」
「ありがとうございます、マージさん!」
メリザは軽く会釈をした。
「メリザも頑張って!ユキト君を支えてあげてね!」
「はい、そのつもりです!変な意味じゃありませんよ!!」
ユキトとメリザは手を振るマージを背にカーテンの外に出た。
「なぁ、メリザはマージさんの知り合いなのか?親しげだったけど…」
「…えっ?…あぁ、マージさんとはお父さんの鍛冶の材料探しでよく一緒に行ってるから。マージさんの鑑定魔法で探すんだよ!」
「鑑定魔法も珍しいのかな?あんまり聞かない気がして…」
「多分そうだと思うよ!…こっちであってるよね」
メリザはカーテンを出た目の前の扉を指で示した。
「そう言ってたな。行こう!」
メリザは進み出て扉を開けた。メリザが入った後ユキトも車いすをこいで入った。
中では何人かが魔法の練習をしているらしき声が響いていた。
修練場は床が地面になっていて木の的が何個も列をなしていた。漫画やアニメでよく見る、炎魔法や氷魔法などを練習している初心者が何人かいた。
ユキトは人がいない所に行き魔法の石を握った。
「意識を集中させればいいんだな」
「そう。意識を魔法の石に移す感じ」
メリザは自分の経験からユキトに助言した。ユキトはより集中するために目を閉じた。そして、その助言通りにやると簡単にできた。
ユキトは意識世界に入り込んだ。
全体が白い空間にユキトの意識だけが存在している状態だ。その状態で声だけが聞こえた。
「こんにちは。身体強化魔法の使い方を示します。なお、この音声は聞き逃しても記憶に残りますのでご安心ください」
女性のマニュアルのような話し方で魔法の指導が始まった。
ユキトは音声を聞き終えるとレオンデントに意識が戻り目を開けた。
「どう、ユキト?魔法の使い方分かった?」
メリザの声が聞こえる。
「ああ。バッチリだ!」
ユキトはそう言ってから木の的の前に車いすを進めた。
息を吸って吐くと自分の胸に手を当てた。自分の中に魔力を流し込むことで筋肉が活性化し、強化できるというものが身体強化魔法である。
「クリ―チャーブースト…!」
ユキトが魔法の石から教わった魔法、クリ―チャーブーストは生きているもの全てにかけることができる。攻撃力、速さ、守備力を大幅に上げる効果を持つ。
ユキトの場合は足が動かないため速さは変わらないが、経験を積み、物体にかけられる魔法を覚えることで車いすの速度を変えることもできるようになる。
「――セルフッッ!!」
魔法がかかったユキトの身体は心なしか少し大きく見える。
そして、目の前の木の的に右手パンチを繰り出した。すると直接当てた訳でもないのに木の的が右手の衝撃だけで粉々になった。
「うそでしょ…!?」
メリザが驚くのも無理はない。初めから的を粉々にしたのだから。普通は当たったとしても少しひびが入ったりするぐらいだ。
「す、すっごいな!!本当におれがやったのか!?」
メリザだけでなくユキト自身も驚いている。
「すごいよユキト!私のところまで衝撃の風が来たよ!やっぱり違う世界から来ただけあるね!」
「だな。しかも、この魔法は攻撃力だけじゃなくて速さと守備力も上がるんだ、強すぎじゃないか?」
「それ、私にもかけられたりする?」
「今はまだ経験が足りなくて自分にしかかけられないんだ…。でも経験を積めば他の人にも使えるようになるみたいだ」
「そっか。これからのユキトが楽しみだな!」
ユキトはもうちょっとだけ魔法を試していくことにした。
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