第4話 付き添い

 翌日も金槌を打つ音でユキトは起きた。

 ガノスがまた何かを作っている様子だった。


「おお、起きたか。昨日は眠れたか?」

「まあまあです。慣れるのには時間がかかりそうです」

「そうか。それより今日はダルトスの街を見て回るんだろ。その服だとこっちでは珍しいはずだ。追いはぎに会ってもおかしくない。こっちの世界の服を着な、俺が見繕ってやるから」


 ユキトは青いシャツと黒い七分丈のズボンをはいていた。

 しかし異世界で目立つ訳にもいかないので、ガノスの言う通りにして用意してもらった。


 ガノスは薄い皮の鎧と軽い金属でできたすね当てを用意した。

 ユキトは着ていた服の上からそれらを装備して車いすに乗った。


 ちょうどその時メリザが奥から出てきた。


「おはよう!二人とも。ユキトは眠れた?」

「おはよう!まあまあ眠れたよ」

「良かった!お父さんに服用意してもらったんだ。似合ってるよ!」

「ありがとう!…まあ、元々着てた服の上から着ただけなんだけどな」

「そっか。それはそうと、ダルトスの案内と魔法館は昨日のスープ食べてから行きましょ!」


 ユキトたちはメリザが作ったスープを食べてから外に出た。


 ダルトスの街は北と南に門があり、街の周りを岩なのか金属なのか分からない物質の壁が囲んでいる。

 ガノスの鍛冶屋は北西側にポツンとあり、北東側に万屋、食べ物屋、酒屋が集う。ガノスの鍛冶屋は武器や防具を売っている訳ではなく、万屋に売って生計を立てている。たまに、直接客から依頼を受けることもある。万屋はガノスが作った武器や防具を客に売っている。

 南西側には居住区と宿があり、宿は旅人向けになっている。

 そして、南東側にはユキトたちが行こうとしている魔法館が位置する。


「少し距離があるけど大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ!それにしても、ガノスさんの鍛冶屋は他の建物からなんで遠いんだ?」

「あぁー。それはね…お父さんが周りが静かな方がいいって言うから、離れた所にしてもらったの」

「そうなのか。やっぱり職人にはこだわりがあるんだな!」

「こだわりかなぁ…偏屈だと思うけどな…」


 メリザが先に歩き、ユキトが車いすをこいでその後ろを行く。道は石造りで平らになっているため車いすでも走りやすくなっている。

 しばらく歩いて行くと博物館のような見た目の建物が見えてきた。初見でまあまあ大きいとユキトは感じた。


「ここが魔法館か!ついに魔法を使えるんだな」

「そんなに楽しみ?」

「おれたちの世界は魔法が存在しないからな。誰でも憧(あこが)れるよ!」


 ユキトは魔法が使えることにわくわくしていた。


 魔法館の入り口には大きな扉がある。

 扉の前に低い段差があった。ユキトは少し下がって、車いすに勢いを付けて段差を乗り越えた。


「じゃあ入るわよ!」

「ああ!」

 メリザは扉を開け、ユキトと共に入って行った。


 魔法館の中は十字の廊下になっていて、東西の行き止まりに扉がいくつかある。

 魔法館はつるつるの石造りでできていて、壁や床は一面石である。唯一扉だけは木で作られている。


 ユキトとメリザは入口から真っ直ぐの、北側の行き止まりに向かっている。行き止まりの左側には扉が一つ、右側には怪しげなカーテンがあった。

 メリザは右側の怪しげなカーテンの方に進み出た。


「ここだよ!」

「何だ、ここは…」


 ユキトは少し怪しいと思ったが、どっかしらで見た占いの場所に似ていると感じた。


「失礼します!」

 メリザは怪しげなカーテンをまくり、中から押さえユキトが入れるようにした。

 二人が中に入るとテーブルの向こうに占い師のような女性らしき人が座っていた。顔を布で覆っていたため判別できなかったが声で女性だと判(わか)った。


「久々に人が来たね!最近は人がまばらで暇してたのよねー」

「そんなこと言わないでください、マージさん!」


 占い師のような女性はマージという名前らしい。声からして二十代後半ぐらいだろうか。しかし、声が若く感じる。十代と言ってもおかしくはない。もっとおばあさんだと思った―、とユキトは思わなくもなかったが、怒るかもしれないので黙っておいた。


「それで、マージさん。こっちのユキトっていう子の適性を見てほしいの」

「もしかして…メリザのボーイフレンド?やだもー!ひゅーひゅー!」

「ち、違いますっ!道で倒れてたのを助けただけですっ!」


 ユキトは少し寂しく感じたが、会ったばかりなので当然だと思った。

 そして、マージの前のテーブルに近づいた。


「ユキトです。どうやって適性を見るんですか?」

「真面目そうな子ねー!うん。じゃあテーブルの上の水晶に手をかざしてね!そしたら見ちゃうから」

 ユキトは言われた通り水晶に手をかざした。マージが何か呪文を唱えると水晶が光った。


「…えっ!えーー!?ち、ちょっと待って!いきなり二つも魔法使えるのー?」

 マージは慌てた様子だ。


「どうしたんですか?」


 メリザが冷静に聞いた。


「だってね。身体強化魔法と召喚魔法が使えるって書いてあるんだよ!すごくない?普通じゃないよー!」


 マージは取り乱してユキトの魔法を珍しがった。


「そんなに珍しいんですか?」

 ユキトが聞くとマージは少し落ち着いて答えた。


「珍しいのなんのって、まず魔法が二つ使えることが珍しいの。それに加えて、身体強化魔法と召喚魔法自体が珍しいのー!」


 マージはまた鼻息が荒くなってきた。

 ユキトたちはマージが落ち着くまで待つことにした。

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