第3話 鍛冶屋
がしゃん。次の瞬間、何かが壊れた音がした。
そして、おれは倒れていた。
後ろの方を見ると車いすが半壊状態で置いてあった。置いてあると言うのは語弊がある。落ちていた。
おれはうつ伏せのまま、前に行こうとしたが力が入らなかった。
うつ伏せで動けないでいると誰かの足音がした。
足音からして二人だった。
「おい、あんた!大丈夫か!」
「あなた大丈夫!動ける?」
片方は太いおじさんのような声で、もう片方は女の人の声だった。
おれの身体は動きそうもなかった。しかも、徐々に意識が薄れてきた。意識を保とうとしても目が閉じようとする。
「た、助けてく…れ…!」
雪人は気を失ってしまった。
おじさん声の人は、気を失った雪人を抱えた。
「その車いすも持ってきてくれ!」
女の人に車いすを持ってくるように言った。
カン、カン、金槌(かなづち)で何かを打つ音がしてきた。
暖かい。どうやらどこかの家の中にいるようだ。雪人はベッドに寝ていた。
目を開け辺りを見渡した。色々な形、大きさの剣や盾、鎧などが壁にかけられていた。
どうやら日本ではない場所に来てしまったようだ。
額には濡れた布のようなものが置かれてあった。誰かが乗せてくれたらしい。
「あっ、気が付いた!?あなたが倒れてた時は驚いちゃった」
さっきの女の人の声だ。換えの濡れた布を持っていた。この人が額に布を乗せてくれていたようだ。
女の人は長めの黒髪で髪を結んでいた。服は白い長袖のシャツに茶色の膝丈のズボンで、ブーツのような靴を履いていた。
「ここはどこ、ですか?」
「いいよ、堅苦しくしなくて。ここは私の父の鍛冶屋兼家だよ!」
女の人は雪人の額の布を取り換えながらそう言った。
「ありがとう!助けてくれて」
「ううん。通りかかってよかったよ!…あっ、私メリザ。それで向こうにいるのが父のガノス。鍛冶で色々なものを作ってるの。あなたの名前は?」
「おれは雪人だ!漢字で雪に人って書いて雪人。名字は長月だ!」
「かんじ?ユキト?ナガツキ?どっちが名前なの?」
「いや、長月は名字で雪人が名前だよ」
「名字って何?あなた変わったことを言うのね」
待てよ。名前は普通名字と名前だよな。ここでは名字がないのか?漢字も。それに、この世界観ってまさか…!?
“異世界”なのか?
確かにここは知らない場所だし、地球に武器防具をこんなに置いている所はない。漫画とかアニメでしか見たことがない。
「ええと、メリザ。この世界ってどこなんだ?」
「えっ?どこって。レオンデントだよ!ここはダルトスって街の鍛冶屋だけど…。やっぱりあなた、違う世界の人なのね!どうりで変わった服を着ているわけね」
メリザはユキトに少し興味があるようだ。
「違う世界の人がいるっていうのは聞いたことしかなかったから、本当にいるなんて思わなかった!」
「おれも、異世界があると思わなかったよ!空想でしか存在しないからな」
「あっ、そうだ!のど渇いたでしょ。何か飲み物持ってくるね!」
そう言うとメリザは、飲み物を取りに奥に入って行った。
「…あんたも脚が動かないのか?」
火に強いエプロンのような布をつけ、長靴に似た靴を履いたガノスが作業をしながらユキトに話しかけた。
「ああ、事故で。それで二回目の事故で気づいたらこの世界にいたんです」
「そうか。まあ細かいことは分からねえが、俺の家内も病気で脚が動かなかったよ」
「今はどうしてるんですか?」
「何年か前に死んじまった。だが十分生きた!メリザと一緒に支えながらな。最期も笑ってたよ、ミラは…」
ガノスは一度手を止めたが、また作業を続けた。
「そういえば、ユキトだったか。あんたも車いすを使ってるんだな」
「…車いすを知ってるんですか?」
「知ってるも何も、ミラのために作ってからずっと作り続けてるからな!そこまで驚くことじゃないだろ」
いや、異世界で車いすなんか聞いたことないよ。珍しいぐらいだよ。ユキトは心でそう思ったが、言わなかった。
「そうだ。あんたの車いす、壊れてたから直しておいたぞ!ちょっとだけ改造しちまったがな…まあ大目に見てくれ」
「改造?直しただけじゃないんですか」
「ああ。俺が作る車いすは魔法の力が込められている。だから変形したりもできる」
ガノスは少し自慢げに言った。
「変形?…ってできるんですか?」
「そうだ。まあ見てな」
そう言うとガノスは目を閉じた。
「頭で車いすが指輪になるのを思い浮かべると…」
なんと、置いてあった車いすが光って変形し指輪に変わってしまった。指輪はガノスの手に乗っかった。
「す、すごい…!本当に魔法はあるんだな!」
ユキトはあり得ない光景に上半身を起こして唖然とした。
「この逆をすると…」
今度はガノスの手の上の指輪が光って変形し車いすに戻った。
「これ以外に水に濡れてもいいように防水加工と、全体的に頑丈にしておいたぞ!」
「はいはい。もう自慢はいいから…」
そのときメリザが飲み物を持って戻って来た。ユキトにお茶が入ったカップを渡して言った。
「ねぇユキト。これからどうするの?」
「こっちに来たばっかりだしな。分からないな」
「だったら明日この街を案内するついでに魔法館に行かない?」
「魔法館?おれも魔法が使えるのか?」
「うん。まずは魔法を覚えないと身を守れないからね!魔法の適性を見てもらって、練習して使えるようにするの」
「そうか。…じゃあ、案内お願いします!」
ユキトはその日メリザが作ったスープを食べて、鍛冶屋のベッドで眠りについた。
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