第2話 またかよ

 入院生活が板についてきた頃だった。担当の医者に、もう退院してもいいと言われた。

 だけど、あと五日だけ入院したいと伝えた。親には入院費を負担してもらっているので面倒をかけてしまうが、後で親孝行をしようと思った。


 おれは入院生活で車いすをこぐのが上手くなった。まあ当然と言えば当然だが、三週間もいれば。そして、腕だけでこぐため、腕の筋肉が付いた。腕がムキムキになった。


 機械学科ということもあり、事故前の筋肉は人並みぐらいだった。

 今はジムで鍛えたような筋肉が上半身に付いている。


 そして、五日が経っておれは退院した。

 一人暮らしを元々していたのだが、運が良いことに部屋が一階で、しかも車いすでも入れるような広さがあった。

 ここで運の良さ発揮しちゃったよ!…なんて自分にツッコんでみたりした。


 大学には、なんとか車いすでも行けるように特別措置をしてもらった。何でも、特例らしい。雪人が慶大学の車いす使用者のパイオニアになったらしい。自称だが…。


 その日は一人暮らししている家に帰った。中に入り、車いすをベッドの横につけた。

 上半身は動かせるので、両手をベッドについて座る形になった。

 雪人は横になり、目を閉じてふぅーっと息を吐いた。


 三週間と五日前にこんなことが起こるなんて思いもしなかった。

 でも後悔はしていない。人を助けた代償は大きかったが、いつか良いことが起きることを願っている。


 なんてことを考えているとなんだか眠くなってきた。

 今日はもう寝てしまおう。



 それから何週間か過ぎた。


「なあ、佐賀宮。一緒に帰らないか」

「いいよ!」


 授業道具をしまいながら帰る準備をした。

 バスに何とか乗り家の近くで降りた。


 佐賀宮は帰る方向が雪人と一緒であり、雪人の家から歩いて何分の所に住んでいる。


 横断歩道で信号を待っていると、子供二人が道を隔ててしゃべっていた。


「おーい!こっちこっち」

「ちょっと待ってて!」


 片方の子供がもう片方の子供と待ち合わせをしていたようだった。

 しかし、声をかけられた方の子供が赤信号で道路に飛び出した。


「あの子供危ないな。なぁ、雪人…」


 雪人は佐賀宮が話しかける前に飛び出していた。

 全速力で漕いで子供に近づき、道路の向こう側に突き飛ばした。


 するとすぐ横からトラックが迫っていた。雪人はそれにいち早く気づいて飛び出したのだ。


「ゆきとーーっ!!」


 佐賀宮の叫びもむなしく、雪人はトラックにひかれてしまった。

 しかし、トラックの運転手は急停止して雪人がひかれた場所を見に行ったが、雪人の姿は見当たらなかった。



 雪人は、意識はあるが動けないという不思議な状態だった。


 …またかよ。またやってしまった。おれは自己犠牲の塊だな。

 佐賀宮が名前を呼んでいた。またあいつに迷惑かけたな。入院中もチームの課題を佐賀宮一人でやることになってしまった。教授がその授業の単位を一番低い評価でも取らせてくれるようにしてくれた。取らせてもらえるだけありがたい。


 しかしおれはトラックにひかれたんだよな。にしては身体が痛くない。

 もしかして、死んだのか…。死んだから痛みを感じないのか。


 なんか明るくなってきたような…。いや、光が見える。


 突然光が目をくらませるほど輝いた。

「ま、まぶしい!」

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