第19話 忍法✕魔法

 紅は野営地周辺に多くの罠を仕掛けた。

 忍者は罠にも精通している事が多い。

 罠は彼等にとって、有用な手段であるからだ。

 食料を得る為、敵を倒す為、自らを守る為。

 様々な罠を修得している。

 紅は巧妙に仕掛けた幾つかの罠を見て回る。

 紅はこの世界に来て、初めて魔法と呼ばれる力に出逢った。

 あまりに不思議で理解不能な力ではあったが、実際に目にして、話を聞き、色々と試してみる中で、自分も魔法が扱える可能性がある事を発見したのだ。

 それ以降、鍛錬を繰り返し続け、自分なりにはかなり使えるようにはなったと思う。ただし、独学な為、エミールとは少し異なった形で魔法が発動されているようであった。

 紅としては扱えるようになった魔法がどれだけ効果があるかを試してみたかった。実戦において、自らの技の効果が不明な状態で使うのは危険だからだ。

 その上において、安全な状態で的に出来る敵の存在は必要不可欠であった。

 そもそも、魔獣と呼ばれる存在も紅には未知の存在であるからだ。

 そして、落とし穴に何かが掛かっていた。

 落とし穴と言っても左程、深い落とし穴では無い。せいぜい、膝までの深さ。しかし、穴の底には木片を尖らせた槍のような物が数本、立ててあり、穴に落ちた者の足を貫くようにしてある。しかも木片の先には麻痺薬が塗ってあり、刺された者は意識を失う。

 穴に落ちたのはゴブリンと呼ばれる魔獣で猿のような姿で、毛は無く、緑色の肌をした魔獣だ。

 「気味の悪い猿か・・・丁度良い。まずは火炎の術を試してみるか」

 紅は右手を倒れたゴブリンに向け、呪文を唱える。すると右手は輝き出し、手の先に渦巻いた炎の球が生まれる。紅はそれを押し出すようにすると炎の球はゴブリンに向かって、飛んでいく。そして、ゴブリンに接した瞬間、大きな炎となりゴブリンの身体を包み込んだ。

 熱さを感じたゴブリンが意識を取り戻したのだろう。悲鳴を上げながら藻掻き苦しむ。だが、それも3分も経たずに終わり、ゴブリンの身体は炭と化した。

 「ほほぉ・・・こんな僅か時で消し炭と化したか・・・並の火では無いな」

 その成果に紅は満足する。

 その後も彼方此方で罠に掛かった魔獣に紅は様々な魔法を試した。

 火炎、水、風、爆発。

 それぞれ、特徴はあるが、概ね、紅の想定した通りに魔獣に効果があった。

 「魔獣と言えども、ただの獣と変わらぬか・・・魔力を用いるからどこまで、火などが通じるかと思ったが」

 紅は死んだ魔獣の死体を腑分けしつつ、魔獣自体も調べた。

 忍者にとって、知る事は最も重要な事であった。

 多くの情報を集める事、知らない事があってはいけないのだ。

 腑分けをしている紅の背後に何かの気配を感じる。

 紅は即座に刀を抜いて、周囲を警戒した。

 「誰何?」

 周囲に味方が来ている可能性も考えて、尋ねる。だが、答えは無い。

 魔獣かと思い、紅はすぐに退路を考える。

 忍者は無駄に戦闘はしない。基本的に回避する事が最優先であった。

 「変わった人間だな」

 男の声がした。そして、茂みから一人の男が現れる。紅は咄嗟に相手に目潰しの為の唐辛子と胡椒の粉を混ぜた物を投げた。それは男の顔に掛かりそうになる。普通ならば、目を開けている事が出来ない。

 だが、その粉は突如の突風で吹き飛ばされた。

 「魔法か?」

 逃げ出そうとした紅だが、相手が微動だにしない事に気付き、諦める。そして、相手が魔法に長けた存在である事にも気付いた。

 「ははは。呪文詠唱も無しに風魔法を操ったのが、不思議か?」

 男は笑いながら紅に尋ねる。

 「悪魔・・・とか言う奴か?」

 紅は相手の素性を探るように尋ねる。

 「そうだ。人間が恐れる悪魔だよ。初めて見るか?」

 男は余裕の表情で紅を見下ろす。

 「あぁ・・・話には聞いていた。なるほど、確かに凄い存在のようだな」

 「まぁ、怯えるな。この周辺で少々、私の配下の魔獣が次々と殺されているのを感じ取ったので、様子を見に来ただけだ。お前の使う魔法は少々、変わっているな」

 「変わっている?まぁ、独学ではあるがね」

 「独学か・・・それにしても我々が知る言葉で紡がれていない。お前は何者だ?」

 「私は・・・紅・・・火遁の術」

 そう言った瞬間、紅の体を炎が包む。

 突如の炎の柱に悪魔は驚き、余裕の笑みは消え、何が起きたか解らぬと言った感じに炎を凝視するしか無かった。

 数分、続いた炎は周囲の草を燃やし、消えた。そして、忽然と紅の姿が消えたのだ。

 「炎で消し炭に・・・いや・・・逃げたのか?一体・・・どうやって」

 悪魔は不思議そうに焦げた地面を見つめるだけだった。

 炎で相手の目を晦まし、その間に相手の視覚外から逃げ出した紅は全速力で野営地へと向かった。

 あれが悪魔か。

 初めて見た悪魔に大きな脅威を感じつつも、冷静に頭で得た情報を分析した。

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