第15話 国王
エミールと紅は急ぎの旅にて、馬を用意して、王都へと向かった。
二日、馬を替えながら王都へと到着する。
すでに王都は魔王討伐の為に準備が始められていた。
王国中に兵士の募集が行われ、農民からの志願者が相次いだ。
王都の外れにある練兵所では集められた兵の訓練が始まっている。
多くの物資が集まる王都は賑わっていた。
鍛冶屋も武具の発注が相次ぎ、忙しそうに働いている。
そんな活気のある街中をエミール達は歩く。
「みんな、戦争だと言うのに嬉しそうね」
エミールは活気ある様子に呆れたように見ていた。紅はそれを見て、答える。
「エミール殿。戦とはそうしたものです」
「そうなの?戦争なんて、人は死ぬし、悲惨なだけよ」
「はぁ・・・負ければ、そうですが、勝てば、褒美もありますし、農民には臨時収入になります。こうして、商いも儲かりますしね」
「呑気なものね。だから、戦争を繰り返すのよ」
「左様ですね。戦わずして、望みが得られるのであれば、最も良いのですが」
そう思いながら、紅は元の世界の事を想い出す。
国王が常駐する王宮は王都の中央にあった。
門には多くの騎士と兵が立ち、厳重な警戒がなされている。
そこにエミール達が現れる。騎士は彼女達を止めて、尋ねる。
「お前達は何者だ?」
するとエミールが答える。
「私は薬師のエミールであります。国王陛下に謁見したく参りました」
「国王への謁見だと?まずは身元を証明する物はあるか?」
エミールは腰の革袋から何かを取り出す。
エミールがそれを見せると騎士の顔色がみるみると変わる。
「国王陛下の手形をお持ちとは・・・今、陛下にお伺いを立てますので、少々、お待ちください」
騎士は踵を返し、宮殿の中へと向かう。しばらく待つと、騎士が謁見の間へと通る事を許した。
騎士に連れられて、エミールと紅は謁見の間へと向かう。
国王陛下の前だけあり、騎士や近衛兵がエミールや紅の前に何人も立つ。ここに至るまでに荷物は全て、騎士に預け、武器になりそうな物が無いかを確認された。無論、紅は全ての武器を事前に外して、荷物に入れている。
国王陛下が現れる。彼は玉座に座り、その前にエミールと紅は跪く。
「お久しぶりであります。陛下」
エミールがそう告げると国王はコクリと頷く。
「頭を上げなさい。エミール殿。あなたには日頃から世話になっている」
国王はエミールを労う。それほどにエミールは王国で重宝されている存在なのだろうと紅は感じた。
するとエミールは顔を上げた。そして、国王は尋ねる。
「今日は何の用かね?わざわざ、王都まで来るとは」
「はい。私も魔王討伐に参加したく、許可をいただきたいと思います」
「そなたが?・・・薬師にして、賢者のそなたに行って貰えれば、討伐隊の者達も勇気付けられる。しかし・・・かなり危険な任務になるが・・・よろしいか?」
国王は心配そうな表情でエミールを見る。だが、エミールは覚悟を決めた表情で答える。
「構いません。今、魔王を倒さねば、やがて、この世は地獄と化します」
「ふむ・・・解った。エミール殿には私の方から手練れの騎士を護衛に付けよう。好きに使ってくれ」
「御意」
それで謁見は終わった。
エミール達は別室にて、待たされる。
1時間後、二人の騎士が訪れる。
国王がエミールの護衛にと選抜した騎士達だ。
一人は老齢の紳士。細身で騎士には思えない感じだ。
彼は深々とお辞儀をする。
「クライド=バレルです」
その名前にエミールは驚く。
「あなたがバレル公爵ですか?」
「左様」
紅は冷静に老紳士を眺める。確かに細身だが、立ち姿などから、かなり鍛えられた体躯を持つ者だとは解っていた。だが、紅にはそれ以上は解らない。
「エミール殿・・・公爵様とは?」
「公爵様は長い間、王国で教練の指導をなさっている方です」
「なるほど・・・剣術の指南役ですね」
それを聞いて、彼は笑う。
「そんな凄いものでは無い。ちょっと腕が立つだけです」
それを隣で聞いていた若い騎士が慌てる。
「教官。それはあまりにも。この国の騎士の誰もがあなたに敵わないのに」
「ははは。マーカス。お前も騎士になって、かなり経つんだ。こんな老いぼれに勝てないとか言うな。クラック家の名が泣くぞ」
「す、すいません」
すると若い騎士が名乗る。
「私はマーカス=クラック。クラック男爵家の次男です」
さすがにエミールもその名に聞き覚えが無かったのか特に何も言わなかった。
クライドが話を始める。
「私と彼がエミール殿の護衛を務めます。王国きっての賢者様の護衛に選ばれたのは光栄であります。なにとぞ、よろしくお願いします」
二人の騎士は深々と跪き、お辞儀をする。それに対して、エミールも深々とお辞儀をした。
エミール達は護衛の支度が終わるまで、二日間、時間を持て余す事になった。
王都内の宿を取り、二人は王都内を色々と物色する事にした。
紅にとって、王都の中は興味深かった。
田舎に居ては見られないような珍しい物が多くある。
忍者は様々な事に興味を感じるように訓練されている。どんな些細な事でも情報として有用な事があるからだ。
文化の違い、特産物、人、交易。
多くの事を目に焼き付ける。
そんな紅の様子にエミールは楽しそうに見ている。彼女からすれば、紅の様子は珍しい物に興味津々の女の子にしか見えないのだろう。
色々と買い物を終えて、料理屋で食事をして、宿に戻る。
そして、二日後。
騎士達は自らの兵を率いて、約100人の規模となっていた。
さすがにこの規模で旅をするとは思って無かったのか、エミールは驚いていた。
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