第10話 隣国探索
無事に国境を越えた紅は街道を進んだ。
国境付近に死体は転がっていたが、街道を進むと流石に死体は転がっていなかった。特に誰かと遭遇する事も無く、すぐに国境近くの村に到着した。
紅はすぐに村に入る事はせず、まずは身を潜めながら周囲から村を観察する。
村の規模は1000人程度。国境近くであり、商業なども多くある感じだ。
ただし、村に活気は無い。人の姿はチラホラしか見えない。ただし、兵士の姿は少ない。軍隊が留まっている可能性は低い。
紅は安全だと思うと村へと何食わぬ顔で入る。
村の様子は煉瓦造りの建物が並ぶが、道路は未舗装であった。
並ぶ商店の多くは閉店している。
旅人姿の紅が珍しいのか、稀に遭遇する村人は珍しそうに眺めてくる。
試しに無害そうな若い女性に声を掛ける。
「あの、宿屋はどこですか?」
そう声を掛けられて驚く女性。
「どこから来たのですか?」
驚いた女は紅にそう尋ねる。
「隣の国から来たばかりなのですが?」
その答えに女は更に驚いた。
「隣の国?そ、そんな・・・」
紅はまずいと思った。明らかに答えを間違ったと感じ取った。
「な、なにかあるのですか?」
「し、知らないの?魔王が復活したのよ。国境近くで騎士団が殲滅して、魔物の集団が王都へと攻め込んだの。この国は終わりだわ。この村にも魔王の配下がやって来て、私達を全て、奴隷として、扱うと言ってるの。抗った領主様は騎士や兵と共に向かわれたけど、皆殺しにされて・・・」
紅は彼女の話しぶりから魔王の話は本当だと感じた。
「そうですか。その魔王の配下は今、どこに?」
「北の丘の上に建つ領主様のお屋敷よ。領主様の家族もどうなったかわからない。この村もどうなるか。皆、不安で不安で・・・」
「そうですか」
紅は女と別れて、魔王の配下がどんな者なのかを確認する事にした。
上手くいけば、大きな情報となる。これだけでも持ち帰っても良いだろう。紅はそう思うと北の丘へと向かった。
村を見下ろすように領主の屋敷はある。さすがに領主の屋敷に向かう道だけあり、そこは石によって、舗装がされていた。だが、その道を使う事を紅はしない。
当然、屋敷からこの道はまる見えであり、危険しか無いからだ。
幸いにも丘には広葉樹が多く茂っており、身を潜めながら、丘を登る事が出来る。
紅は荷物をふもとに隠し、夕闇に紛れて、静かに丘を登り始める。
丘はそれなりに斜度があり、容易に登れない。多分、敵の侵入を拒む自然の城塞の役目を果たしているのだろう。
だが、それは紅には通じなかった。縄を用いて、彼女は器用に崖のような斜面を登っていく。忍者として幼少期から鍛錬を続けた技だ。忍者はいかなる場所にも忍び込む為に様々な技術を有している。
スイスイと猿のように丘を登り切り、屋敷を囲む塀の前にやって来た。
「石垣のような塀ですね」
紅は塀を眺めていく。登るにしても敵に見付かり難い場所を探ってからだ。
見張りなどは居らず、簡単に侵入が出来そうな場所に鉤爪を縄に縛り付け、塀の上へと放り投げ、引っ掛けてから登り始める。
塀の上から屋敷を覗くと幾つかの部屋に灯りがある。
「これだけでは解りませんね。危険ですが・・・入り込みますか」
屋敷への侵入は危険だった。普段なら初見で入り込むなどはしない。
だが、屋敷の雰囲気は無人に近く、警戒度は低いと感じたのだ。
月の灯りのみしか無い中、夜目を活かして、紅は屋敷へと忍び込んだ。
窓の多くは本来、忍び込むのを防ぐ為に扉があるのだが、それを閉める者が居ないのか、開いたままだったので、忍び込むのは簡単であった。
室内は更に暗い。
それでも紅は片眼を瞑りながら、ゆっくりと探りながら廊下を進む。そして、外から確認した灯りのある部屋に近付く。
耳を澄ませた。
声が聞こえる。野太い男の声だ。
「そうか・・・では、隣国がこの国に攻めて来るのだな?」
その答えは無い。だが、男はまるで会話をしているように話す。
「ふむ・・・魔王様の完全なる復活の為にはより多くのマナは必要だ。魔獣の数が集まれば、隣国も支配下に治めて、多くのマナを集める。その為に敵の兵力を削ぐのは必要だろうな。私も戦の準備をする」
紅は彼が何者なのか分からないが、確かに戦の始まり感じがした。
問題は彼が何者であるかは分からぬが、会話が正しければ、やはり、魔王は存在する。しかしながら、復活とはどういう事なのか。悪魔という存在に疑問を持つ紅にはにわかに解らぬ事が多かった。
紅は明日以降、声の主に関して、調べるとして、屋敷から抜け出そうとした。
廊下を歩き出すと突然、扉が開いた。
「人間か・・・忍び込むとは良い度胸だな?」
紅は背後から声を掛けられ、素早く、振り返る。その手には短刀が握られている。部屋の灯りに照らされた相手はおよそ人間とは思えぬ異形であった。
「鬼か・・・」
紅は知る限りの知識の中に当てはまるのが昔話に出て来る鬼であった。
頭に角が生え、大きく開いた口には牙があり、腕が四本もある。
「なんだ・・・そのおにとは?」
紅が発した言葉に頭を捻る異形。紅は短剣を構えながら尋ねる。
「お前は何者だ?」
「俺を知らないのか・・・愚かな人間だ」
鬼の手には炎が現れた。
「魔法ですか・・・屋敷が燃えますよ?」
紅は冷静に言う。それに鬼は気付いたように炎を消した。
「ふん・・・ついつい、感情的になった。お前、普通の人とは違うな。騎士とも違う雰囲気だ。簡単には殺せない感じがする」
そう言われて、紅は緊張感を高める。
「殺すつもりですか?」
「無論だ。しかし・・・お前が何者かを吐かせてからでも良いかと思った」
「ほぉ・・・私が簡単に吐くと?」
「所詮は小娘。我らが少し、お前等の心を撫でてやれば、すぐに発狂して、何もかも吐くだろう」
異形の言葉は脅しじゃない。淡々と事実を述べているだけだと紅は判断した。忍術にも自白させる術が幾つかある。それは拷問や薬などもあるが、相手の心を奪う方法もある。相手はそれを知っている可能性があると紅は感じた。
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