第13話 チュートリアル その2
『ニュー・ゲームへの登録、ありがとうございます』
扇の前に現れたカード……くるくるとその場で回っている。
「これは」
『加城扇様のメモリカードとなります。ゲーム終了後に発行しますので、忘れずにお持ち帰りください。次回からのログインにはこのメモリカードが必須となります……、自動設定された脳を基準に判断しますので、パスワードの登録は不要です』
脳、と聞くと不安になってしまうが、本人であると確認するためのものだ。指紋や顔認証でもいいとは思うが、それらを踏まえた上で、脳を見ているのかもしれない。
『それでは、ニュー・ゲームの基本情報をお伝えします』
すると、周囲が真っ暗になった……青空が夜空になった、としても、見えなさ過ぎる。闇だ――だが、広げた自分の手の平もやがて見えるようになってくる。
扇の周囲を囲むように現れたモニターの光が、周囲を照らしていたからだ。
映像が動き出す。そこはまるでお城のような内装だった……赤い絨毯があり、それが様々な通路へ繋がっている。
『ベース』と呼ばれるここは、吹き抜けになって空が見えている、大きな広場のような場所だ……、音楽がかかれば社交ダンスでもしてしまいそうな広々とした空間……、
『このレッドカーペットは、各フロアへ繋がっています……、そのフロアには、現在、ニュー・ゲーム内で公開されている新感覚のスポーツゲームが遊べるようになっています。
たとえば入口近くのこちらは、「スーパー・バスケット」というゲームになります』
映像が動き出し、スーパー・バスケットのフロアへ。
フロアに入ると、試合をしているコートが映された。
そこは、円形の囲いがあるコートだった。地面に白線はなく、区切りがない――。
ダム、ダムッ、とボールが弾む音……まさに今、プレイ中のようだ。
透明な壁に囲われているため、弾かれたボールは壁に当たり跳ね返ってくる。現実世界のバスケと違い、白線の外側に出たことでゲームが一旦止まる、ということがない――、
そのため、休みなくゲームは動き続ける。
『モデルになったスポーツとは一線を画すゲームとなっています――ニュー・ゲーム、です』
そして、大きな変更点がある。
映像の中でプレイヤーが動いた。
ボールを持ったまま、急に加速したのだ。不自然な加速である……、現実世界では、どれだけ鍛えたところで物理的に無理な動きだろう。人間の構造上、あり得ない速度——、
『あのプレイヤーが「アイテム」を使いました。
アイテムとは、試合中に使用できる、特別な「能力」のことです。プレイヤーは最大三つまでセットすることができます……、アイテムの入手方法は多岐にわたりますが、オーソドックスなものでは、レベルアップ、ポイントを貯め、ショップにて購入する、現実世界で課金をする――になります。ニュー・ゲーム内でおこなわれるイベントやクエストにて、報酬でのみ手に入れることができる「アイテム」も存在します』
すると、映像ではなく、扇の目の前に光る物体が現れた……、眩し過ぎてなんなのか分からないが、指先で軽く触れてみると、ぱき、と亀裂が入り、光が消えていく。触ってはいけなかったか、と焦ったところで、扇の手の平に落ちてきたのは、小さな宝石だった。
「これが、アイテム……?」
『はい、ゲームを始めた方にプレゼントしています――「アイテム:加速」です。映像の中でプレイヤーが使っていたアイテムになります。
細かい効果はアイテムに触れることで見ることができます――アイテムレベルは【E】ですので、最低ランクの効果となります。
強化をしていくことで、細かい効果が変化していきます――【E】ランクしか存在しないアイテムもありますので、強化していくことでアイテムが「化ける」こともあります。覚えておいてください』
なるほど、と扇は頷く。口頭の説明では言っていなかったが、アイテムに触れると見ることができた情報の中……、アイテムは、試合中で使用すると消えてしまうらしい。
使用するか温存するか、そういう戦略も必要になってくるわけだ。
『続いては、試合中のルールになります。スポーツによって違いますが、ここでは基本的な共通ルールを説明します。
どんな試合であれ、プレイヤーには「HP」が設定されています。「0」になると、強制的にログアウトされてしまいます。その場合、お持ちになっていたポイントが半減しますので、お気をつけください。
ニュー・ゲームはオートセーブではありますが、入手したアイテムは、いつでもどこでも取り出せる「アイテムバッグ」に入れていた場合、全て消滅します――、これには回避方法があり、「ベース」にて利用できる「アイテムボックス」を活用することで消滅を防ぐことができます』
映像に戻る。HPが0になったプレイヤーが、コート上から消えていった。スーパー・バスケットは現実のバスケットと同じく、5vs5の戦いらしい。しかしHPが0になってしまったプレイヤーはログアウトしてしまったので、自動的に5vs4になってしまっている。
これも戦略の一つというわけか。
『はい、ログアウト――つまり「ゲーム・オーバー」を狙うのは、卑怯ではありません。王道中の王道の戦法と言えるでしょう。スーパー・バスケットに限らず、ボールではなくプレイヤーを倒すことは現実世界ではできないことです……どんどん、活用してきましょう』
そうなると、アイテムのセットの仕方も工夫が必要になる。
攻撃ばかりのアイテムだけでは、防御が疎かになる。
しかし、防御に振ってしまえば、突破力が足りなくなる……、これぞ駆け引き、か。
『続きましては、レベルアップについてです。
試合に勝利すると経験値が貰えます。一定以上溜まると、レベルアップします。その都度、ルーレットが始まり、止まったところのボーナスを受け取ることができます。
たとえば、HP増加、たとえば、アイテム入手、たとえば、スキル入手——などです』
「スキル……」
まだ説明を受けていないキーワードだ。
扇の呟きを拾ったからか、急に、目の前にステータス画面が現れた。
「おわっ」と軽く引いてしまう扇は、恥ずかしくなりながらも、目は逸らさない。
……もしかして声で表示、非表示が切り替わるのかもしれない。
そういう説明こそ、するべきなのでは?
目の前のステータス画面は自分のものだ。
アイテム、スキル、プレイ時間など、基本的な情報が載っている。
スキル、という項目を軽く指で触れてみる。だが反応がないので、「スキル」と声に出す。
と、画面が切り替わり、スキル一覧表へ――、やはり声で反応するようだ。
指で操作はできない? まあ、設定次第か。
声だけ、というもの不便ではある。
『スキルは、アイテムとは違い、常時発動しているものや、ある条件下で発動するものがあります。これらは買うことはできず、レベルアップでしか習得できません。当然、課金も対象外となります。そしてスキルは、プレイヤーが持つ「才能」に反応して変化します――』
扇は、説明を聞きながらふと気になった……、ステータス画面、その下の方——、
三つある、丸い空白。そこには大きく、×印が書かれてあった。
気になったが、声は説明してくれなかった。
不具合、というわけではなさそうだ。
×印の表示のされ方が、はっきりとしているのだから。
『では、これにてチュートリアルを終了いたします。
あとは、実際にニュー・ゲームをプレイし、あなたの目で確かめてみてください。ベースには、「チュートリアル」、「ゲーム説明」をしてくれる人物がいますので、分からないことはなんでも聞いてみてください――それでは、良いゲームを』
そして、世界が変わる。
また浮遊感が扇を襲い、次の瞬間、真下へ落ちていった。
―― ――
眩しさに薄めた目を開くように前を見ると、大きな門があった。これが、言っていた『ゲート』か……、ということは、先に進めば『ベース』にいける、ということになる。
周囲を見る。ゲートの周りは森だが、先に進めるとは思えない。なにかありそうな気もするが、興味はやはり、ゲートの先だ。
「遠藤は……まだか」
いや、遠藤の方が早いのかもしれない。
もう先へいってしまった、か……だろうな、と納得する。
事前情報の差がある。それに遠藤は、チュートリアルは飛ばすタイプだろう。
一切、説明など聞いていないのでは?
「――じゃあまあ、いくか」
手の平から出現したメモリカードをゲートに向けると、ゴゴゴゴ、と重たい門が動き出す。
動いた可動域はかなり少ないが、それでも扇一人分くらいは簡単に通れる。
手早く抜けると、背後で門が閉まる。そしてさらに進むと――がらり、と世界が変わった。
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