第12話 チュートリアル その1

 課金は悪ではない……、とは言え、扇はしないタイプだ。


 苦労をして手に入れるのが面白いのに、それを楽に省略して手に入れても喜びは半減だろう……まあ、好みの問題だ。手早く手に入れることが好きな人を否定するつもりもない。


「じゃあ、遠藤とバカ兄貴はカードを入れて、ゲームの指示に従って進めて。普通に説明を聞いていれば分かると思うから。じゃあ、わたしたちは中で待ってるからね」


 と、天理はそれだけ言って、先にカプセルに入ってしまう。


「おい!? 待ってるって――どこでだよ!?」


 慌てた様子の扇を見て、「ふふっ」と加護が笑う。


「チュートリアルが終われば見えますよ……『ゲート』がそこにありますから。そこから進むと『ベース』に辿り着きます。見て分かるところに私たちはいますので」


「そ。だからさっさときなさいよ、バカ兄貴」


 ぷしゅう、という音と共に、カプセルの蓋が閉まる……天理は先にいってしまったようだ。

 ぶぉん、という低い振動を感じ、カプセルが青く光り始め――、緊急停止ボタンを押す以外、天理に話しかける術はなかった……。


 あとは、仮想世界で直接、出会うしかない。


「大丈夫だよ、怖くないから」


 と、久野。別に、扇は怖いと感じているわけではないが、久野の気持ちを汲んで、否定をしたりはしなかった。


「……時間がかかっても、待っててくれよな」

「うん、ずっと待ってるから」


 久野もカプセルに入る。


 では、後で、と加護も蓋を閉めてしまった――残されたのは扇と、遠藤のみ。


「……いよいよだな」

「だな」


 そして、最後に、扇は遠藤を、遠藤は扇を見て、


『じゃあな、また――――ニュー・ゲームで!!』


 二人の声が重なった。


 ぷしゅう、と蓋が閉まり、二人同時に、意識が仮想世界へ引っ張られる。


 ―― ――


 吸い込まれるような感覚と、浮遊感——、

 ふわふわと浮足立っているのか。


 気分が良い……、まるでスポーツの試合前の、あの興奮している感じ……。

 思い出し、扇は懐かしむ。


 と、浮遊感がなくなり、足が床を見つける……しかし、そこは空中だった。

 透明の足場でもあるのだろう、下は、まだまだ空一面である。


「ここは……、もうゲームの中、だよな……?」


 周囲には当然、扇以外に誰もいない。

 見渡す限り青色なので、どうしようかと迷っていたその時だった――、



『ニュー・ゲームへようこそ! まずは設定を登録してください』



 女の子の声だった。同時、扇の目の前に、文字が浮かび上がってくる。


「えっと……、健康診断の問診票みたいだな……はいはい、持病はないです、と」


 指を動かすだけで文字を描ける。

 まあ、項目にチェックするだけなのでレ点しか活用しなかったが。


『次に、身長、体重を計測します』


 カプセルに寝転がっている、現実世界の自分の体を調べているのだろう。


『完了しました。次に、名前、生年月日を登録してください』


 言われた通りに記入していくと、


『確認しました、「加城扇」様』


 登録した情報は少ないが、別のところと紐付けされるのか、扇の個人情報が登録されたらしい。記入したはずがない血液型や住所までがニュー・ゲーム内へ登録されている。


『これにて初期設定を終わります――それではニュー・ゲームの世界へ、ようこそ』



 だがこれで自由の身、というわけではないらしい。


 今度はニュー・ゲーム内での基本的な説明のようだ。

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