第11話 いざ、ニュー・ゲームへ
そして、そのボールは…………、
くるくる、とリングの形に沿って回り、ぽす、と。
リングを、くぐった。
「入っ……た」
加護の消えそうな声が静寂の中で響き、
それが起点となり、その場にいた全員が、一斉に喋り出す。
「――す、すごいよ、天理ちゃん!!」
「さすがは天理ちゃんだなあ、オレはいけると思ってたぜ!」
「すごいよ天理!」
久野、遠藤、加護が、一斉に天理の元へ駆け寄った。
出遅れた扇は、ここから混ざろうとは思わなかった……一歩引いて、天理を見守る。
いくわけにはいかない。
いけば、天理からすれば、嫌味にしかならないだろう。
クエストは達成できた、だからこのままニュー・ゲームへ移動すればいいが、しかし天理の性格上、扇の挑戦を見逃してくれるはずもない。注目されている中で挑戦するよりは……、思い、扇はボールを掴み、軽く放った。天理のような教科書通りのフォームではなく、ただ遠くへ放り投げただけの、我流も我流……、
狙いだって細かく定めたわけじゃない。
なんとなくだ。なんとなく、方向だけを合わせて。
入るはずがない。入っていいはずがない。
入るべきではないのだ。
しかし、そのボールは綺麗な放物線を描き、向こう側のリングへ、掠ることなく、くぐった。
ネットを揺らす、シュパッという音が聞こえ――、
扇がちらと見れば、久野、遠藤、加護は、天理に夢中で見ていなかったらしい。だから音だって聞こえていないだろう……だが、背を向けている三人とは別で、天理は扇を見ている――。
天理と、目が合った。
信じられない、と言いたげで、まるで大きな壁にでも当たったかのような、青い顔をしていて……、天理は、ぎりり、と歯を食いしばる。歯を砕いてしまいそうな力だった。
だからやりたくなかったのだ。
誰かを、こうして不幸にしてしまうくらいなら、こんな才能、いらなかった――。
―― ――
「では、クエストクリア、おめでとうございます」
女性の店員さんに連れていかれ、クリア報酬として、ニュー・ゲームエリアへ案内されることとなった。クエストクリアは正規ルートではないため、関係者用の通路から案内される……、ゲームシティの裏側を見ているが、それでも内部事情は全然見えてこない。
バックヤードも表向きか。
「それでは、私の案内はここまでです。この先は、みなさんが待ち望んでいたニュー・ゲームエリアとなりますので――どうぞ、お楽しみください」
壁の回転扉から去っていく店員さんを見送り、扇たちは広がる世界を見る……、
「ニュー・ゲーム――これが筐体なのか?」
カプセルのような形をした筐体だ。上向きに蓋が開いて、寝転がることができる……、
「なんにも、ボタンとかないんだな……」
寝転がればそれで感知してスタートするのかもしれない――楽しみでもあるが、少し不安でもある……この形は、まるで人体実験をされるようにも思えてしまう……それは映画の見過ぎか?
「そう言えば、久野は遊んだことがあるんだよな……、それに、天理の師匠って――」
「うん、ちょっとね」
と、はぐらかされた。ということは言いたくないことか……であれば、無理に聞き出すこともない。隠していることは多そうだが、それが久野への信用が揺らぐ理由になるわけではない。
扇だって隠し事の一つや二つあるのだ。
意図的に嘘を吐いたことだって。だから久野を責める権利はない。
「あ、みな様、カードはお持ちですか?」
「カード?」
加護の問いに、扇と遠藤は首を傾げる。
「はい、プレイカードではなく、メモリーカードですが。ニュー・ゲームだけは、メモリカードは別途、購入しなければいけないんです。他のゲームはネット上に保管する、クラウドシステムとなっているのですが、ニュー・ゲームだけは自身のカードに記録をする形になっていますので……、容量は各自で拡張する必要がありますが……、それだけ、個人情報の取り扱いは『こっち側』次第になるというわけです」
重要な情報が扱われる、ということか?
「開始時点でプレイカード、メモリカードを購入します……そして次回からのプレイ金額は、ニュー・ゲーム内の通貨で代用することができるんです。そしてそれは、ニュー・ゲーム内で『勝ち続けること』で得られるポイント、ということになります。勝てば勝つほど、ゲーム内の通貨が溜まり、プレイ金額に自動で引き落としてくれる、ということです。負けていれば、現金でプレイカードを更新する必要がありますが……だからこそ、現金でどうにかできますからね」
負け続けたからと言ってプレイできなくなるわけではありません、と加護が説明する。
「……まさかポイントを現金に変えることも可能なのか?」
「はい、それを収入としている人もいますよ……さすがに『1p』が『1円』ではありませんが」
ニュー・ゲーム内で勝ち続け、ポイントを溜め続ければ、それを現金に換金できる。
ニュー・ゲームが世界で人気になったのも頷ける。
「そして勝敗に重要となるのが、『アイテム』の存在です。このアイテム、現金で買うことができるので、誰でも簡単に、ある程度のレベルの相手であれば勝てるようになるんですよ。
まあ、現金で買うアイテムはものすごく高いんですけどね――」
それでも買う者は多数いると言う……、
それだけ、ニュー・ゲーム内のプレイヤーレベルが高い、ということなのだろうか。
「課金は悪ではありません。
技術じゃなくて、資金力もまた、実力の内です」
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