第5話 世界の侵食
雪の中、発掘されてくるものを処理したりしなかったり、安全に埋めたりしている。
それは危険物で、少しでも気を抜くと世界を、俺を、侵食するのだ。
俺は最近それを処理するのが面倒になっていて、ものを埋め戻すことが増えた。
面倒。
それなら雪の中から掘り出したものを爆破してしまえばいいんだよ、と「俺」が囁く。
爆散。雪が融け、飛び散る。その下の土が見えて、それは。
?
粉になった破片たちが散ってゆく。散ってなくなったように見えるがそれは雪の上に降り積もっており、夜になると何かを連れてやってくる。生命のない世界に立ち現れたそれはまるで黒色の悪夢のようで、
?
それは実際に起こったことではない。
しかし認識災害の中、考えたこと、認識したことは漏れ出して実体を持つ可能性がある。
それが本当になってしまったら、ここは静寂ではなくなる。
静寂でなくなればどうなる?
俺は一人ではなくなるのか。
一人でなくなったらどうなる?
雪の中のものの発掘が進む、雪の中のものが解析され、昇ってきた太陽に照らされてどろどろになって、周囲に溶け出して雪を染めて、真っ黒になった雪は、
?
そんなことは体験したことがない、ただの不安であり、妄想だ。しかしこの世界でそれは力を持つ、持ってしまう。だから考えてはいけない、思考は世界を侵食する。
時々こんな風に思考が止まらなくなる。それは世界を危機に晒している、のか、とは思うが、目が覚めるとまた雪が積もっていて世界は灰色に戻っているのだ。
それなら何をいくら考えたって自由なのではないかとは思うが、世界が地獄になっては俺も暮らしにくいので。
霧散させていく。
思考に雪を纏わせるようにして。
そうして埋めて、また増えるのだ。
雪の中のものが。
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