遭遇

 今日はバレンタインデー。神崎ひかげは友チョコを買って上機嫌で大通りを歩いていた。

 そこに表れた武士が1人。異様なその立ち姿はスーツでは隠しきれていなかった。


「限界酒乱の神崎ひかげ殿とお見受けする。我は死合を所望する。」


 どこかぎこちない日本語より、神崎ひかげには気になる単語が耳についた。


「限界酒乱って何!?」


 思わず聞き返した。何時からそんな渾名を頂いたのだろうか。あのハブ酒が原因か!と、神崎ひかげは思い出した。

 沖縄旅行でハブ酒を飲みあかした姿がユーチューブに上げられていたのだ。大蛇と言って差し支えないそれをソファーにして、ハブ酒を飲み続けた姿についた名が限界酒乱OL。それは瞬く間にネットの海に拡散していった。


「デートのお誘いなら断っているのだけど。」


 神崎ひかげはバックを地面に置いた。この男が今にも襲って来そうな気を纏っていたからだ。

 シュッと、風を切る音がした。男を見ると既に蹴り終えて構え直す動作をしている。


「いちよう、お名前をうかがっておこうかしら。」


「俺の名は、二葉。詠春拳のチープ・マンだ。」


「良い名前ね。」


 短い会話のやり取りを終えて2人は向かい合った。神崎ひかげはスキットルを取り出してウイスキーを一口飲んだ。そして、蓋をしてスキットルを手放す。それが開始の合図となった。

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