苦い結末【ホワイトデーアンサー】
結局、貰えなかった。
俺だって両想いを夢見るチャンスぐらい欲しい。もし何か貰えたら、脈アリだと思ってその場でこの想いを打ち明けよう。そうすれば、この長い長い片思いにも一旦終止符が打てるかもしれない。どんなお伽噺よりも幸せな結末をぼんやり空想しながら、その日を迎えた。
いつも放課後なんて残らないくせに、バレンタイン当日、荷物だけを教室に置いて、まだ学校にいますよというあからさまなアピールをした。彼女には、伝わるだろうか。一応予備は作ろうと思うの、と何よりも可愛い笑顔で笑って誰かに言っていたその顔を思い出す。
余ったなら、くれるのではないか。現実味のない筋書きだけが成立してゆく。別に話したことがないわけじゃないし、むしろそれなりに話す方だ。俺に宛てたものじゃなくても構わない。大事なのは宛先ではなく、差出人なのだから。
時計の長い針がひと周りするまで、どこかしらで時間を潰した。教室に戻るも、机の上は俺が教室を出たそのときから何も変わっていない。虚しさばかりが残って、行き場のない気分だ。こんな思いになるくらいなら、もういっその事帰ってしまおう。だが家に帰ろうと、もどかしいその感情だけは、どうにもならなかった。
一日過ぎのバレンタイン、一週間過ぎのバレンタインを密やかに期待するうち、気がつけばもうホワイトデーは明日に迫っている。馬鹿らしい。ここまで来たら、わずかな望みさえも無駄なのは、自分でもわかっている。ひょっとしたら今年こそ貰えるんじゃないかという淡い期待は、するだけ無駄だったのだ。
ホワイトデーなんてバレンタインほど盛り上がらない。期待はずれな、何もない一日だったのが何となく悔しくて、帰り道にスーパーへ寄り、チョコレートを買った。甘ったるいホワイトの板チョコだ。
希望なんて持つべきじゃなかったと、今更後悔した。箱を開けると案の定チョコレートは割れていて、その中の欠片を一つ口に入れる。甘いはずのチョコにどこか苦みを感じたのは、きっと気のせいだと思った。
宛先不明 鴫宮 @Aria_7693
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