第3話

 次の日。すすむの態度はいたって普通だった。


 朝の挨拶をくれたのは進の方だったし、(もしかして聞かれていなかったのかな)と感じたわたしはとりあえず自然と挨拶を返した。昼休みになってから、お弁当を先に出したのも進だった。わたしの頭の中は依然として重く、よく働いてくれない。

 いくつかの、アニメの話がひと段落した後、進が半笑いで訊いてきた。


「僕の瞼って変かな?」


 胃に、強烈な痛みがきた。だけどそれを態度に出してはいけない。わたしは進の瞼を変だなんてこれっぽっちも思っていない。だけど昨日のシチュエーションだけを見れば、わたしも進の瞼をおかしいと感じているようにもとれる。つまり、あのやりとりはやっぱり聞かれていたんだ。


 ……嫌だ。


 誤解されたくない。

 進の瞼、変じゃない。

 変なのは、進の瞼を「変だ」って言う奴らだ。


「ううん、変じゃないよ」


 わたしはハッキリと答えた。


「そう」


 進は厚ぼったい瞼を二、三度瞬かせて梅干しを口に含んだ。


 わたしは本当のことを、半分だけ言えた。

 だけど、どうして残り半分を喉から絞り出せなかったかと思う。

『むしろ、好きだよ』って。


 春の時間がわたしの心の秒針を止めた。それはとても残酷な、時間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る