猫の日
~ 二月二十二日(月) 猫の日 ~
※蛙の行列
意味:向こう見ずな連中だらけ。
蛙が立って行列すると
前が見えないからな。
賢明な俺なら。
もうご存知のことと思っていたのだが。
「まさかここまでとは知らなかった……」
うちのクラスは。
一言で言い表すならば。
バカだ。
「ゴホン! ……ニャー」
「ニャー」
「ニャン」
「……さっきから、何の真似だお前ら」
「今日が猫の日だから、じゃないか?」
「下らん。授業の邪魔だ、静かにしろ」
「ニャー」
「まったく……」
小さな声で。
猫の真似をするだけ。
先生も、怒るにしてもそこまで激しくする訳にいかず。
こうして、たまに文句をつけて来るだけにとどまっているんだが。
……最寄りの四回。
猫の鳴き声。
そのうち三回は。
本物だったりして。
「なんでお前らは連れて来ちゃったかね……」
「しっ! 黙ってるのよん!」
「あっは! やば……。可愛い……」
右斜め前の席に座るきけ子と。
その右に座る王子くん。
彼女たちの膝に。
ノラが一匹ずつ。
それがばれないように。
教室の至る所でみんなが猫の鳴きまねしてるとか。
ほんとこのクラス。
どうしようもないやつばっかり。
見つからないように願い続けるのも胃が痛いから。
とっとと見つかって廊下へ連れ出されるがいい。
――昼休みのことだ。
校庭をウロウロしていた三匹の猫の内一匹を。
何の気なしに捕まえたきけ子。
それを見て。
結構苦労して捕まえたのが王子くん。
そして。
二人が猫をいじってデレデレしてるのを羨ましそうに見つめながら。
全力で走り回った挙句に。
捕まえることが出来なかったのは。
「わ、私は犬派だから……、ね?」
「だったら下唇が富士山になるほど噛むな」
ずっと悔しそうにしてる。
飴色の長い髪も、心なしかぐったり寂しそうに垂れ下がって。
「ニ、ニャー」
時折こうして。
猫たちの気を引こうとしているのだが。
「まったく相手にされねえのな」
「どうして……? 私も撫でたい……」
「あれ? 犬派だろ? 気にならねえんじゃねえのか?」
「…………ワン」
意地悪を言った俺に。
ジト目を向けて来る秋乃だった。
とは言え。
しょぼくれている点については仕方ないとは言え。
その、プリプリ怒るのはやめねえか。
矛先だったら。
当人に向けろ。
「なんで……」
「うひ~! やめろよくすぐったいよ~」
「なんで最後の一匹、パラガス君に懐いてるの……?」
「だから俺に当たるな。知らねえよ」
秋乃に追われたトラ縞は。
通りかかったパラガスの胸に飛び込んで。
秋乃が呆然とするのをよそに。
こうして教室まで連れて来られたんだが。
それにしても。
ほんと良くなついてるな。
……パラガス。
エサだと思われてるんじゃねえのか?
いや、分かった。
お前、猫じゃらしに形が似てる。
「ねえ、どうして私、嫌われてるの?」
そうだなあ。
「機械の臭いがダメなんじゃないか?」
「酷い……。私から機械の臭い取ったら、私じゃなくなる……」
「ヒントのつもりだったんだけどな」
「…………はっ!?」
秋乃は、ようやく気が付いて。
机やら鞄やらをあさって材料をかき集めると。
いつものように、工作を始めた。
俺だって、確証があったわけじゃねえが。
その勢いならあっさり作れそうだな。
猫じゃらしメカ的な何かを。
「できた……」
「相変わらずすげえ早いな。どんなの作っ……、え?」
じゃらし的な要素ゼロ。
まったくの予想外。
鼻息荒く。
自信たっぷり。
秋乃が俺に突き付けて来たものは。
木製のネズミ。
……いや。
無駄に精巧に彫ってあるけど。
すまん、ちょっとわからん。
それをどうする気なの?
「こ、こいつに猫たちは首ったけ……」
秋乃は、ネズミを床に置くと。
右手に、テレビのリモコンを構えて。
「進め! ネズミロボ!」
『チュー!』
「うわっ!? すげえ速さっ!」
リモコン操作で教室狭しとネズミロボを走らせると。
「きゃーーーーーー!!!」
「ぎゃああああ! 今のなに!?」
あっという間に阿鼻叫喚。
いつぞやのG騒ぎみたいになっちまった。
「騒がしいぞお前ら!」
「そんなこと言ったっ……、ふんぎゃあああ!」
「いやあああ! こっち来ないで!」
『チューーーーー!!!』
「ニャー!」
「ニャン!」
「ニャー!」
「……釣れた!」
そして、鳴き声装置まで内蔵したネズミロボに。
念願の三匹が、我先にと飛び掛かると。
「後はこのまま……!」
秋乃は、猫の猛追を見事にかわすように操作しつつ。
自らは床に座り込んで。
三匹の猫を引き連れたネズミロボを自分に向けて真っすぐ突進させ……。
「誰の仕業だ! 学校からつまみ出すぞ!」
そして土壇場で恐れをなして。
「げふげふげふげふっ!」
ネズミと猫を。
俺に押し付けやがった。
「……また貴様の仕業か」
「これが加害者に見えるとしたら相当なもんだ」
顔に飛び掛かってしがみついたままの猫三匹をぶら下げて席を立った俺に。
のしのしと近付いた先生が。
リモコンネズミに気付いて手に取った。
「こんなものを作れるやつは……」
「そうだ。一人しかいねえだろう」
そしてようやく。
先生が黒幕の方を向くと。
「ば、ばれた……」
「当然だ」
「かくなる上は……」
この状況でも観念しない秋乃が。
リモコンのボタンを押すと。
ネズミの両目が赤く点滅して。
ぴ
ぴ
「ん?」
「まさか、それ……」
ぴぴぴぴぴぴぴぴ……!
ぼんっ!
「うはははははははははははは!!! 自爆装置!」
「び、美意識……」
そうな!
ロボにはこれがねえとな!
俺が腹を抱えて笑ってたら。
煙の中から閻魔大王が顔を出す。
いや、笑ってる俺にらむな。
犯人向こうだろうよ。
「秋乃。よくできてるが、火薬の量が少なすぎたな。敵は無傷だぞ」
「な、仲間の自爆攻撃でも倒せないボスこそ王道」
「なるほど。それには同意だな」
やれやれ。
ボス退治は次に持ち越しだな。
「さて。俺は関係ねえんだが立ってりゃいいんだな?」
ああ笑った。
俺は珍しく清々しい気分で猫をぶら下げたまま廊下へ向かったんだが。
「……バカもん」
「ん? とうとう正しい加害者に罰をくれてやる気になったのか?」
「猫は立てんだろう」
「は?」
そして俺は。
校門の横に。
ずっとしゃがんだまま。
招き猫のポーズでいることを命じられた。
何人もの人に見られて。
通報されるかと思ったら。
まったく理由は分からないが。
放課後、秋乃が鞄を持って迎えに来てくれるまで。
何事もなく過ごすことになった。
「とうとう、当たり前に思われるようになった?」
「頼むから真実を突きつけないでくれ」
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