第十三夜:奇術師にプロポーズする百合
『コーディング』
奇術師にプロポーズをするのだから、やっぱりサプライズを仕みたい。そう考えた私は指輪ケースをラッピングして、それを一回り大きな箱に収める。これを何度か繰り返して、でかいプレゼントボックスのマトリョーシカを作り上げた。人体切断マジックのあの箱くらいのサイズだ。こりゃ驚くぞーと思ったけど秒でバレる。
「えーなにこの箱? あっもしかして指輪? うんいいよ、結婚しよう」
誕生日のレストラン帰り、マンションの廊下を埋める大きさの箱を一目見て、奇術師はにこやかに言った。箱をノックする手はとてもやさしい。
いや違うけど、と無意味な否定をする私をよそに、奇術師はカッターを持ち出して箱を雑に切断し始める。なんかもっとこう……気付いたなら気付いたなりに配慮してくれないだろうか? 例えばほら、ラスト三工程あたりで勘付いた感じでどうでしょう。
けれど箱を解体し終えた奇術師は、「ほんとに指輪じゃなかったな」と意外そうに言う。見ると、一番小さな箱の中にはキュートな飴玉が入っていた。奇術師はそれを口に入れて嬉しそうにするけれど、私は内心取り乱す。一体全体、指輪はどこに?
瞬間、奇術師はパチンと指を鳴らした。私の手の中に、硬く小さな感触が現れる。
「なんてね。奇術師にサプライズを仕込むなんて百年早い」
気の効いた台詞だと思った。なにせ私たちはこれから、百年を誓うのだから。
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