第十夜:意味が分かると同居百合

『明日もまた追試』



 霊とか信じないタイプなので、と契約した格安の事故物件には、地縛霊が居た。目の前に現れたなら信じるしかない! 首筋に生々しい絞め跡の残る彼女は、「こんなになるなら練炭にしとけばよかった」と仕方なさそうに笑う。この世に未練を残して死んだ地縛霊は、願いが叶えば即刻成仏するらしい。私はその手伝いをしてやることにする。


 けれど困ったことに、地縛霊は自分の願いを思い出せないらしいのだ。私も私で、地縛霊との生活が楽しくなってきてしまった。彼女は物を動かせるので、一緒にモンハンをやってくれる。私が仕事に行っている間に夕飯を作っておいてくれるし、部屋干しだけなら洗濯もできる。おまけに眠らないから、目覚まし代わりにもなってくれる。


 ただし、私と地縛霊の生活には毎日何かしらのトラブルも起きた。地縛霊は物を食べないから味付けを間違えるし、生活リズムも合わない。深夜にネトゲに興じる地縛霊を叱る私は、隣人からすれば狂人のように聞こえるだろうか。それとも、恋人と電話で痴話喧嘩してると思われてるのかも。実際私たちは、同棲しているようなものだし。


 ところで、今日は珍しく穏やかな一日だった。けれど日付が変わる直前、地縛霊はリンゴを食べる用の爪楊枝で私の肌を刺す。脈絡の無い暴力に私は怒るけど、地縛霊は「危なかった」と言って笑った。いや危ないのはお前じゃろがい。透ける身体を小突く私を見て、地縛霊は九十九パーセントくらい満たされた顔で笑っている。



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