第七夜:自殺を止められホテルに行く百合

『相伝』



 綺麗なお姉さんに抱かれて以来人生が超楽しい! 全ての始まりは私が自殺を試みていたことだった。人生が嫌になった私は、ある橋の欄干の上に腰かけていた。眼下の河は黒く荒れ狂っていて、落ちてしまえば命はない。


 そこに現れたのがお姉さんだった。彼女は私を引き戻すと、私の身体がいかに魅力的かを滔々と説いた。思い返すと最低だけど、まあ命の大切さとかを話されても逆効果だっただろう。お姉さんは最終的に、「まあ死ぬにしてもいっぺん人の役に立っておこうよ」と言って私をホテルに連れ込んだ。まだ死にたい理由すら言ってないというのに!


 行為の内訳は覚えていない。目覚めたときには私一人でベッドに寝ていて、素肌に計五枚の万札が貼り付けられていた。悪趣味なレイプ犯みたいな事をされたのに、沸き上がってきたのは無尽蔵の自己肯定感だった。うーん、私の命って大切!


 以来、私の人生は変わった。転職をして有意義に働き、稼ぎは貯金と趣味につぎ込む。お洒落もしてみたら案外楽しかった。友人も過去一で増えたけど、恋愛はからっきしだった。理想は高く持ちたいし忙しいし、あのお姉さんも忘れられないし。


 そしてある日、私は理想的な相手と出会う。一目惚れだ。けれど、口説き文句を考える時間はなかった。なにせ彼女は橋の欄干に腰かけて自殺を図っていたのだ。私はその手をこちらに引いて、彼女の身体がいかに魅力的かを滔々と説く。

 




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