第五夜:宝くじを飼う百合

『皮算用ペット』



 同居人が宝くじを飼う。誤字じゃない。気まぐれに購入したひとひらの年末ジャンボが、可愛く思えて仕方ないらしいのだ。一緒に食事したり、散歩に連れてくくらいならまだよかった。ジップロックに入れてお風呂に入り、大事に持って眠るようになると、私は宝くじに嫉妬し始める。なにせ私は、混浴も同衾もさせてもらった事がない。


 同居人はやがて、宝くじの数字をもじって「ミナコちゃん」と呼び始める。私は頑なに「宝くじ」呼びを貫く。同居人が宝くじを置いて出かけた際には、いっそ切り刻んでやろうかと思った。けれど思い留まって、はしっこをちょっと爪で引っ掻くだけにしておく。なにせこいつは宝くじだ。いずれ七億円に化けるかもしれない。


 宝くじ用のベッドを手編みする同居人の傍らで、私は七億円の使い方を夢想する。ちゃんとした一軒家を買いたいし、いずれは式も挙げたい。女二人で生きていくことを考えると、貯金するぶんもたっぷり欲しい。当たるはずがないと分かりながらも、期待せずにはいられなかった。だってほら、謎の宝くじ偏愛に理由ができるじゃないか。


 案の定、というわけでもなく、宝くじは6等に当籤していた。三千円だ。同居人は結果を見ようとすらしなかったけど、熱は少し冷めてきていた。私も宝くじも平等に構う。


 ところで私は、宝くじを換金できずにいる。二人と一枚の暮らしを続けてる。あの愛を三千円に換えてしまったら、いつか私の愛まで値段がつけられそうな気がするのだ。




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