第四夜:水族館で少し変わったデートをする百合

『そしたら二人で泳げるね』




私と恋人とのデートスポットは水族館と決まっている。 私が到着した頃には恋人は既に中に居て、寝てるウミガメとかエイの裏側とかをぼんやり眺めていた。私が来たことに気付くとぱっと笑顔になって、それからふわふわの髪を慌てて整えはじめる。そのマイペースさが私は好きだ。彼女に流れる時間が常に、穏やかなものであってほしい。


やがてイルカショーの時間となり、恋人はイルカと共に泳ぐ。何回かの選考を通ることで貰える役だ。輪くぐりするイルカを水面から手を叩いて祝福し、水しぶきを浴びる前に水中に避難する姿は、普段の恋人からは想像もできない立派さだ。その泳ぎ姿を見て、近くで観劇していた子供が「おさかなみたい」と呟く。恋人は魚より美しい。


私はショーを終えた恋人に駆け寄る。服が濡れるのを構わず抱き合ってから、顔に口を寄せてそっと耳打った。


「人魚差別禁止法案が可決される見込みが立ったの」


私の恋人は人魚で、幼い頃から水族館で飼われていた。ずっとショーケースの中に居た彼女は海を知らない。けれど彼女の人生は見世物ではない。そうでしょう?


私たちはもうすぐどこへでも行ける。水槽の水を涙が上書きする。



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