第三夜:嘘つき村と正直村の百合

『感情パズル』




嘘つき村の村娘と付き合うようになったけど、毎日「嫌い」と言われて辛い。ツンデレとはちょっと違う。なにせ潤んだ瞳でこちらを見つめながら、本当に愛おしそうに言ってくるのだ。脳がバグる。そのくせ私に「好き?」と訊かれても、私は「好き」としか答えたことがない。二人の気持ちは同じだというのに、この不平等が少し悔しい。


 私たちが立つ二つの村の分かれ道に、ある日旅人がやってきた。旅人は私に向き合うと、片方の道を指し示し「あなたの住んでいる村はこっちですか?」と訊いてくる。私はそれに「はい」と答える。旅人は満足げに微笑むと、指し示した方の道を進んでいった。きっと正直村に行くつもりだったのだろうけど、残念、そっちは噓つき村だ。


 種明かしすると、私の出身は正直村でも、私は正直村と噓つき村の混血なのだ。だから、嘘と正直を気まぐれに言う。それを知らない旅人は、正直村出身の気まぐれな私に話しかけ、たまたま嘘を言われてしまったというわけだ。運ゲーと叙述トリックの被害者になったのは可哀想だけど、性分なのだから仕方ない。


 ところで先程触れた通りに、私は噓つき村娘に対して「好き」としか言ったことがない。彼女は私の気まぐれのサイクルを把握していて、嘘をつきたい気分のときには、他愛ない質問しか口にしない。そして気まぐれで真実を言いたいときだけ、「好き?」と悪戯っぽく訊いてくるのだ。旅人が見えなくなる。「私のこと好き?」と質問がくる。




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