第二夜:意味が分かると社会人百合
『体験したことは描けない』
同居している漫画家が商業連載を始めるらしい。それ自体は喜ばしいことだ。けれどその内容が、女二人の同居生活だと聞いて面食らう。だって実体験を元にされたらたまらない。生活とはプライバシーなのだから。色々と嫌だ。
そんな訳でルールが作られる。私たちが実際にやったことを漫画に描くときは、私が駄目だと言ったらそれは没にする、というものだ。シンプルだけど大切なことだ。
実際、そのルールはうまいこと働いた。漫画で描かれる同居の形は、私たちのそれと少し異なる。現実で失敗したビーフシチューは、シチューパイにグレードアップしたうえで完璧に作られた。現実ではほとんど私が賄っている生活費は、漫画ではきちんと等分されている。架空の女たちが私より若干いい生活をしているのは悔しいけれど、まあルール違反はしていない。
連載が半年を超えたころ、漫画内では大きな変化が起きた。主人公であるゲームクリエイターが、同居人のOLにキスを迫ったのだ。酔った勢いで行われたそれは、OLに拒まれて失敗に終わる。これは展開のドキドキ感よりも、描写の異常な生々しさが話題を呼んだ。先生の実体験なのではと、ネットで囁かれるほどに。
けれど、私にこの展開は変えようもなかった。なにせ現実で起きたことと結末が違う。駄目だと言う権限がないのだ。そのルールの穴を突くような行為が、本当にずるい。
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