百合百夜~一分で読める百合掌編百物語~
謝神逸器
第一夜:怪盗を結婚式に呼んだ探偵の百合
『花泥棒を待っている』
怪盗からは幾度となく予告状を寄越されてきたけど、私から出した手紙といえば結婚式の招待状だけだった。彼女はロンドンでの仕事をキャンセルし、古くからの友人を装って式に来た。父の会社の重役と私がかつて関わった事件の関係者で溢れかえる式場で、怪盗はテーブルの料理をつまみながら披露宴を見守っている。
純白のレースに包まれた自分の身体を見ながら、そういえば最初に関わった事件も式場で起こったよな、と思い出す。数百人が居る中で花嫁が毒殺された事件だ。怪盗と出会ったのもその時だった。時価七億の指輪を花嫁ごと盗み出そうとした怪盗は、急に花嫁が死んで大層驚いたらしい。殺人犯を突き止め怪盗を取り逃がし、そして今に至る。
父の趣向が大きく反映された豪勢な披露宴よりもなお、極上のショーが見られるはずだった。しかし今のところ、怪盗が動いた様子はない。誓いのキスの相手が急に変わることはなかったし、刃を入れたケーキから煙幕が溢れ出すこともなかった。私の半生を映したムービーの中に、怪盗のトレードマークが突然現れることもない。
それでも私は推理する。怪盗の犯行ルートを推理する。幾度となく繰り返してきたように。私たちは暴き欺かれ、言葉より深く対話してきた。けれど不安が脳を浸す。返送された招待状には、私の名前ではなく「出席」に丸が付いていたのを思い出す。
怪盗はこちらを見ながら泣いている。式はつつがなく進む。
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