□床のロープ

 床にロープが張っているのが目に入った。

「……何これ?」

 何処に繋がっているのだろう──?

 目で辿るよりも先に、好奇心の方が勝ってしまった。不思議に思った私は不注意にも、そのロープを引っ張った。


 すると、それは頭上に繋がっていたらしい。

 吊り戸棚がパカッと開き、同時に口の開いたガラス瓶が上から落ちてきた。

 足元ばかりに気を取られ、それに気付いた時には遅かった。ガラス瓶に入っていた中身の液体は、周囲にぶちまけられた。

 当然、真下に居た私にも被害は及ぶ。頭からもろにそれを被って、全身に浴びてしまう。


「ぎぃやぁあぁあああ!!!」

 それが付着した瞬間、思わず悲鳴を上げてしまったものである。

 液体が皮膚に触れたのと同時に激痛が走った。

──皮膚が液体に溶かされ、煙を上げ始めた。


 私は痛みに堪え切れず床を転げ回った。

 だからどうなる訳でもない。火消しなどとは違うのである。より一層、摩擦で全身の痛みが強まっただけかもしれない。

 それでも、じっとしていることなど出来なかった。

 なんとかこの痛みから逃れようと──元となるものを振り払おうと暴れ回った。


 だが、どうすることも出来ない。

 苦痛に堪え続けることしか出来なかったのである。


──やがて、私もそんな痛みから解放されることになる。

 ようやく苦痛から逃れられる一時がやって来た。


 肉や内臓だけでなく脳味噌まで溶かされた私は、もう何も感じることが出来なくなっていた。

 それどころか、ぴくりとも動くことが出来なくなっていたのだった。

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