□戸棚の中

 戸棚の引き出しを慎重に開ける。何処かに罠が仕掛けられているという話であったが──。

 引き出しはすんなりと開いた。身構えたが──どうやら何も起こらないようだ。


 私は引き出しの中を覗き込んだ。


「これは……?」

 見付けたそれを手にとって見る。

──金属製の鍵だ。


「鍵穴……? 何処かに使うところ、あったかな?」

 部屋の中を見回してみる。

 まさか、扉の鍵というわけではあるまい。それにしては突起も少なく、安っぽい作りである。

 だとすると──。

 私は机の引き出しに目を向けた。サイド棚の一段目にある鍵穴を見た。


 他に、それっぽい場所はない。

 ならば、一応試してみるべきだろう。


 私は机に近付いて、その鍵穴に金属製の鍵を嵌めてみた。

 どうだろう──すっぽりと嵌った。

 進展したことに、私の胸は高鳴った。


 中に何が入っているのだろう。緊張しながら鍵を回した。

 引き出しを開く──。

 中にはテレビのリモコンのようなものが入っていた。他には何もない。


 私は首を傾げた。

──なんだ、これは……。いや、それより──。

 私はそれを触ることを躊躇したものだ。

 爆発したりしないだろうか。毒が塗られていたり、針が突き出てきたりしないだろうか──。

 色々な想像が頭の中に浮かぶ。


 しかし、折角見付けたものを、そのままにしておくのもどうだろう。

 私はそのリモコンを手に取ってみた。

──手のひらにすっぽりとおさまるようなサイズ感だ。重量もそれ程なく、中に爆弾が仕掛けられているということもなさそうだ。


──やるしかないか……。

 何事も、やってみなければ分からない。

 もしかしたら、脱出に繋がるアイテムかもしれない。思い切って、私はスイッチを押してみた。


──カチッ!


 何処かで音がした。

 それは、扉の方角からであった。──よくよく考えてみれば、鍵が開くような音である。


「鍵が開いた……?」

 もしや──と、私は思ったものだ。

 鍵が開いて、ドアノブが回せるようになってはいないか──。

 期待をしつつ、私は扉の前へと移動する。そして、ドアノブにゆっくりと触れてみた。


──ググッ……!


 ドアノブが回った。

 それまで固定されていたように動かなかったドアノブを、ゆっくりと回すことが出来た。


 そして──開いた!

 ドアノブが回り、扉が開いたのだ。

 私はホッとして胸を撫で下ろしたものだ。これで、ようやく部屋の外に出ることが出来る。


 外に出るために扉を開け放った。

 安堵していた私の目の前に──突然、何かが飛び込んできた。一瞬の出来事であったが、この時ばかりはそれがスローモーションになったように見えた。


──ブオンッ!


 ゆっくりと時間が進む──。

 だから、それがロープに繋がれた丸太であることを視覚的に捉えて認識することが出来た。

 丸太が振り子の要領でこちらに向かって飛んできていたのだ。


 ただ、いくらスローに見えたからといって避ける程の身体能力は私にはなかった。

 実際は、ほんの一瞬の出来事である。

 私が丸太を認識した瞬間、顔面に激しい衝撃を受けて私は背後に吹っ飛んだものである。

 これで何度目であろうか──。


──そして、私はそのまま意識を失ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る