二巡目・先手
【二回目・私】
──全部、夢なんだ。
徐々に眠りから覚めながら、私は頭の中でそんなことを考えていた。
──目が覚めたら、私は自分の部屋に居るんだ。
ところが、そんな期待は脆くも打ち砕かれてしまう。
眠りから覚めて目を開けたところで、相変わらず私が居るのは真っ暗闇の中だった。事態はさっきから何も変わっていない。
「……もう嫌だ! 此処から出ないと……」
私のストレスは限界だった。
じっとなどしていられない。
ここから脱出すべく行動を起こすことにした。
両手をついて上半身を起こし、立ち上がろうとした。──その時である。
不意に電灯がついて部屋の中が明るくなる。
──遠隔操作であろうか?
勿論、この部屋には私以外の誰の姿もないのだから、電器をつけた人間が居るとすれば他の部屋からである。
ふとドアの貼り紙が目に入った。以前はなかったはずの──と言っても、暗闇だったのでその存在を確認したわけではないが──ドアに貼り紙がくっつけられていた。そして、そこにはこんなことが書かれていた──。
『可哀想な貴方は、知らない誰かに見ず知らずの部屋の中に閉じ込められてしまいました。……部屋の中は危険がいっぱい! たくさんの罠が仕掛けてあります。どんな罠が仕掛けられているのか──それは、分かりません。くすぐって笑わせる様な小さな罠もありますでしょうし──恐らく、命に関わるような危険な重大な罠も、中には仕掛けられていることでしょう。貴方は何者かがこの部屋の中に仕掛けた恐ろしい罠を掻い潜り、このおぞましい家から脱出しなければなりません。そうでなければ……』
そこで、文章は終わっていた。
──いったい、どこの誰がこんな貼り紙をしたのだろう?
私は先ずはそれが気になり首を傾げた。
果たして、私をこんなところに閉じ込めた誘拐犯──張本人がわざわざこんな御丁寧に貼り紙なんてして知らせるだろうか。
まぁ、愉快犯だと考えたらその可能性はあるかもしれない。私が苦しんでいる姿を何処かから見て、楽しんでいるのだ。その可能性は大いにあるだろう。
ただ、貼り紙の内容からして、まるで第三者から忠告されているかのようにも読み取れる。
もしかしたら、私の手助けをしてくれる第三者が存在していて、危険を知らせるためにわざわざ貼ってくれたのだろうか。だったら、悠長に貼り紙など貼っていないで、さっさと此処から出してもらいたかったものである。
──まぁ、良しとしよう。
どちらにせよ、ちょっとした手掛かりになるので、この貼り紙は有り難いものである。
私はもう一度、貼り紙に視線を向けた──。
文章によると、この部屋の中には数々の罠が仕掛けられているようだ。
その罠とやらがどのような代物であるかは分からないようだが、ちょっとした悪戯から、爆発したり刀剣が飛び出してきて突き刺さったりするような物までありそうだ。
あくまで、貼り紙の内容を信じれば──の話であるが。
一応、この貼り紙自体が単なる悪戯である可能性も考えてみたが──そもそも、そんなことをする理由がないのでその線については考えないようにした。
兎に角、どうであっても用心に越したことはない。
──危なかったな。
今さらに、自分が危険な行為をしていたのだと気が付く。暗闇の中を手探りで部屋中探索していたが──知らなかったとはいえ自殺行為であった。何もなかったから良かったものの、もし生命に関わるような罠が発動していたらとんでもないことになっていた。
悲惨な姿を想像してしまい、背筋がゾッとなったものだ。
まぁ、どんな危険が潜んでいようとも、だからといって何時までもこんなところでじっとしている訳にはいかない。
此処で死ぬまで余生を送るつもりなど毛頭ないのである。
できることなら、こんな危険な部屋からは一刻も早く抜け出したい。
罠が何処に仕掛けられているかは分からないが、用心しながら慎重に動いていけば上手く掻い潜ることが出来るかもしれない。
もしかしたら、初めの探索で一度も罠を発動させず無傷で終えたのはその数が少ないからかもしれない。何処にでも──至る所に罠が仕掛けられている訳ではないのだろう。
少なからず、先程調べた場所は安全なはずである。
──そう考えると恐怖が和らいできたような気がした。
私は覚悟を決め、この危険な部屋から脱出すべく探索を開始したのであった。
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