【一回目・僕】
僕は目覚めた瞬間、体に異変を感じた。
直ぐに上半身を起こして手探りで辺りを探索する。
真っ暗闇の中だ。そうしなければ、お目当ての物を見付けることができない。
食べ掛けの弁当箱や空のビニール袋──邪魔だ。
確か、この辺に置いておいたはずだけど──。
そう思いながらゴミを掻き分けるかのように腕を大きく動かす。
──あった!
僕はお目当てのソレを手に取って、喜んだ。
──リモコンだ。
ただのテレビのリモコンのように見えるが、何も僕は本当にそんなものを探していたわけではない。このリモコンにはちょっとした機能がついているのだ。
僕はリモコンのスイッチを押した。
すると、部屋の明かりが灯った。
部屋の中の電化製品を一括で管理できる万能リモコン──。次いでに、壁のスイッチは操作できないように配線を切断していた。
なんで僕がわざわざそんな手間のかかることをしているかと言うと──勿論、理由がある。
僕は荒れ果てた部屋の中を見て、絶望していた。
──まただ!
無論、リモコンを探すために多少は僕も散らかしたものだが、この荒れっぷりは如何なものだろうか。
自分の知らないところで、いつの間にか誰かがこの部屋の中に入り込んでいる──。
そんな恐怖に、僕は震えたものである。
ある程度、まとめて置いておいたゴミたちが見事なまでに荒らされてしまっている。
それに、僕が目覚めた位置だって可笑しい。
布団で眠っていたはずなのに、入り口近い床の上だなんて──余程、寝相が悪くない限りあり得ない。
寝ている間に、僕は誰かに動かされたのだ。
侵入者の目的は分からない。
外部から人が入って来られないよう扉はベニヤ板を内側から打ち付けていて封鎖してある。
見たところ、その封が解かれた形跡はない。
ならば、侵入者はいったいどうやってこの部屋の中に侵入したというのであろうか。
壁抜けなんて芸当が出来るとは思えないし、何処かに僕にも気が付かない侵入経路があるのだろう。
幸いなことに今は侵入者の姿はないので、近くにはいないようだ。何処かから監視をしている可能性はあるが、隠しカメラのようなものは見付けられない。
──ズキズキッ!
「うっ!?」
不意に強烈な頭痛に襲われて、僕は顔を顰めた。
──やられた!
その時、僕は悟った──。
恐らく、意識を失っている間に侵入者に殴られていたのだろう。これまで興奮状態にあって気付かなかったが、落ち着いてきて段々と痛みを感じるようになってきた。
それまではなかったはずの鈍器で殴られたような痛みが走った。
僕はしばらく蹲り、頭を押さえた。
──痛い、痛い!
──痛い痛い痛い痛い!
──痛い……。
──痛い痛い、痛いっ!
今は堪えるしかない。
しばらく堪え忍んでいると、徐々に痛みは和らいでいった。その頃には、僕は全身汗でグショグショになってしまっていた。
僕の脳裏に、ある考えが過ぎったものだ。
──このままでは侵入者に殺される!
今回はこの程度で済んだが、次はどうだろう。意識を失っている間に、何をされるか分かったものではない。
このままいけば確実に──僕は何者かに殺害されてしまうだろう。
──嫌だ。そんなのは嫌だ。
──死にたくない……。
今はこの部屋には僕以外の誰の姿もない。
独り暮らしなのだから本来、それが当たり前だ。
そう言う意味ではなくて──今は侵入者が席を外している。もしかしたら、こうしている間にも侵入者は僕を殺す準備を進めているかもしれない。
いずれはまた、この部屋に戻って来るだろう。僕を殺すために──。
実のところ、その真相は定かではない。単なる僕の妄想なのかもしれない。しかし──。
恐怖が最高潮に達した僕はある決意をした。守りを固めるなら今しかない。
「やられる前にやってやる!」
戻って来た侵入者を、中に入れないようにするのだ。例え入って来たとしても──やられる前にやってしまえば問題ない。
みすみす殺されるわけにはいかない。殺そうとしてきた相手の命を奪って人殺しになってしまったとしても、それは仕方のないことである。
──正当防衛だ。
僕は──悪くない。
完全に、吹っ切れたものである。
僕はトリカブトの毒を塗った縫針を、床のゴミ溜まりの中に隠して紛れさせた。
また、ドアノブにコードを繋いで、高圧電流が流れる仕掛けを作った。
更に、硫酸入りの瓶を天井に設置し、伸ばした糸を床に這わせて簡易的なトラップを作った。
そして、最後に用心のために扉を開けるための鍵となるリモコンを机の引き出しの中にしまった。机にも鍵を掛け──これで良し。引き出しの鍵は戸棚の中に隠して、より見つかり難くした。
準備万端。
──さぁ、こい!
後は侵入者を待つばかりである。
息を殺しながら、僕は侵入者が殺しに来るのを待ち構えることにした。
──が、いくら待っても侵入者がやって来ることはなかった。
「可笑しいな……。何故だ?」
僕は首を撚った。すぐにでも、殺しに来そうなものであるが──。
これか──。
僕は電灯を見上げた。
監視をしていて、明かりがついているから来られないのだろう。暗くなり、僕が眠ったと思わせれば侵入者は必ずやって来るはずだ。
手間ではあったが、引き出しからリモコンを取り出して電灯を切った。手探りでリモコンをしまい、鍵を掛けた。
今度こそこれで大丈夫なはずである──。
暗闇の中、僕は息を潜めた。
もしかしたら、暗視カメラなんかで見られている可能性もあったので、一応元居た布団の上に寝転がって狸寝入りをした。
僕は内心でほくそ笑んでいた。
──外から戻ってきた侵入者も、まさか部屋中に罠が張り巡らされているなんて思わないだろう。
達成感から、どっと疲れが押し寄せてきた。僕は出かかった欠伸を噛み締めたものだ。
──駄目だ。侵入者の最期を見届けるまで、安心して眠ることなどできやしない!
そう強く思ったはずだったが、何故だか押し寄せてくる睡魔には勝てなかった。
重い瞼をなんとか必死に持ち上げようとしたが、眠気に抗うことはできなかった。
半ば意識を失うように、僕は深い眠りについたのであった──。
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