第3話 青い国


性別:男

年齢:72歳

体系:鏡餅

趣味:釣り

備考:2年前に妻と死別。子供なし。飼い犬のパピーが唯一の生き甲斐。



この国の人間は皆、自由に生活して人生を楽しんでいる。自給自足の生活をしている家庭が多く、腹が減ったら畑で育てた米や野菜、海で釣った魚を食べる。仲間と酒を飲み、デートし恋愛して結婚した後(異性との結婚であれば)子供を作る。

そして、この国の人間は皆カネに執着せずに時間に囚われていない。そのため、文明は他の二国よりも圧倒的に劣っているが、そんな事を気にしている人は誰もいない。自分が生きたいように生きる、ただそれだけ。



青い国のおじさんは今日も行く。


妻は生前、料理が好きで家の一階をレストランにして生計を立てていた。そもそも自給自足の人が多いのでレストランが繁盛することはないが、細々と続けるくらいは集客出来ていた。この国の人間なので、もちろん毎日オープンしているわけがなく、開けたい時に開ける、メニューは気分によって変えていた。

夫であるこのおじさんは〝レストランに必要な材料の調達”が主な仕事だった。海、山、川、畑で自由に採りたい物をとって妻に渡す。そんな生活が大好きだった。

妻の死後、おじさんの生活は急変した。生き甲斐が無くなったからだ。おじさんには自由を一緒に楽しむ人が必要だったのだ。子供もいない彼が路頭に迷って歩いていた時、偶然おんなじ顔をした野良犬に出会った。それがパピーだ。



最近はパピーにご飯を与える事だけを生き甲斐としている。


「ワシの生き甲斐はパピー、お前さんだけじゃ」

「ワシみたいにな、この歳で身寄りがいないとな、不自由を求めるようになるんよ、パピー」

「パピー、今日は頑張るよ、大物を釣ってみせるよ、パピー」



まだ薄暗い朝4時、パピーのいびきで起きた青い国のおじさんは釣りの支度をする。

長靴を履き、いつものように3キロ先の堤防までのそのそと歩く。そこではパピーが大好物の魚がよく釣れるが、最近は何かとてつもなく大きな獲物がヒットする感覚がある。毎回その大物を取り逃してるが今日は絶対に釣ってやるぞと意気込む。


釣りの最中、最近のおじさんは他の国について考えている事が多い。

(他の二国の文明はどれくらい進んでいるんじゃろか。ワシらの国の若い衆に将来はあるんじゃろか。いまのワシらの生活は一体幸せと…よべる…んじゃ…ろか…)

考えているうちに72歳のおじさんは疲れてウトウトしてしまい、1日に何匹か獲物を逃している。



〝ビクッビクビクビクッ”

オーバースローで釣竿を大海原へ投げてから30秒。でた。またこの食いつきじゃ。大きい、大き過ぎじゃ。

今日のおじさんは開始すぐのかかりだったので反応が速かった。


「ぬぉー!ぬぉぉぉー!!」


おじさんが踏ん張る。


〝ギギギギギギ”


信じられないぐらい竿がしなる。おじさんも必死でリールに付いてるハンドルを回す。


〝グルグルグルグルグル”


今までにない食いつきにおじさんは高揚する。いや、この獲物に振り回されてる糸の不自由さに高揚してるのかもしれない。どっちでもいいがおじさんは興奮を抑え集中する。


(影が見えてきたぞ。今日はパピーを喜ばすんじゃ。)


「ぬぉーーぬぉぉぉー!!!」


水面まで見えてきたが獲物はまだ弱ることなく暴れている。おじさんの持っている全背筋を使って、竿を目一杯引き上げた。

この掛け声と共に。


「ばかやろぉぉぉう!!!」



おじさんの引き上げる力は想像以上であり、獲物は遂に水面から姿を現し、口に糸をくわえたまま空中に舞う。

おじさんは引き上げた勢いで尻もちをついた。



「ぬぁ、イテテテテテ」


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