第2話 黄色い国

〝ハッピバースデー トゥーユー ハッピバースデー ディア ミーチェ〜”

〝はい、ミーチェ ローソク消して消して!”

〝フーフーフーッ”

〝わーーーよくできました〜!!!”




(……気に入らない。パパとママの愛が、分散してる。)

そう思っているのは、今日誕生日を迎えたミーチェの隣に座っている姉のレイチェルだ。

4年前にレイチェルの状況が変わった。今まで両親への愛はレイチェル一心に注がれていたが、ミーチェが生まれた事によって構ってもらう時間が少なくなったのだ。

「もうお姉ちゃんなんだから。」

この単語に嫌気がさす。

最近はさらに気に入らない事が起こった。

それはママの3人目の妊娠がわかった事だ。パパとママは私だけのものなのに…と悔しがる。



この国はみんな幸せそうだ。喜びの感情が渦巻いている気がする。世界が黄色いこの国は他の二国と比べると、中性的な性格で協調的な人が多い。常に〝幸せ”や〝喜ばしい事”を生み出す事に必死で、赤い国よりも競争社会ではないため文明の発展は劣る。

ただ、側からみたらレイチェル一家も幸せな家庭だ。パパは一般的なサラリーマンでママは専業主婦。学校にも通えてクラスに友達もいるし、クラスのみんなも楽しそうに毎日を過ごしている。

この国では常に〝喜ばしい事”を探していて、国の祝日は2週間に1回ペース。カラード王の末裔である現在の黄色い国王カラーチェの〝初めてハイハイできた日”なんてものがあるくらいだ。それ以外にも学校独自の祝日がある。この国の週の平日は2020年頃の日本と比較すると平均して1日程度少ない。


自分がワガママだってことはわかっている。ただ、こんなにも時間がゆっくりで競争が起きないこの国の社会に対して、10歳のレイチェルは既にどこか刺激が足りないと思っているし、妹が2人できる事にやり場のない苛立ちを覚えている。


「あーー、なんか面白いことないかなぁぁ!」


今日、学校のクラスでこんな事を呟くと、みんなからは

「変な事言わないで?私たち充分幸せじゃない。明日祝日嬉しいな何しよっかなーー!」

なんて返された。こいつらは何にもわかっていない。



学校からの帰り道、レイチェルはいつも通り自転車で家へ向かう。

(あぁぁぁぁ、もうつまらない!この世の中全体がつまらない!!もぉう!!)

ママとパパのミーチェを見つめてる幸せそうな顔、クラスのみんなの私への表情、カラーチェ王の妙に整った口ヒゲなどを思い浮かべるうちにイライラがピークになり、下り坂なのにも関わらず、ペダルを漕いでさらに勢いをつけた。

スピードは最高潮、風を切る音は騒音へと変わる。

〝ビューーーーーーーッッッ”

22インチの車輪はフル回転している。レイチェルはその速さのお陰で次第にストレスが消えていく感覚に喜ぶ。


「そろそろブレーキだ」


そう思った刹那、脇道から一台のトラックが徐行してくるのが見えた。しかし、レイチェル持ち前の動体視力で間一髪ギリギリのタイミングで避ける事が出来た。





……っとおもった。

(なぜ…自分の体が浮いてる…!?!?たしかに避けたはずなのに…!?)



人は死ぬ間際に今までの記憶が走馬灯のように写るという。そんなことはなかったが、全てがスローモーションになっているようだ。。。

体は空中に浮いていて、自分がくだってきた坂が見えた。

(そうだ、私は猛スピードでここを下った、そしてあのトラックをギリギリ避けた。

そうだ、そうか、避けた瞬間、振り返ってトラックみちゃったんだ、同時に思いっきりブレーキかけたから自分だけすっ飛んだんだ。)

(…けど、こんなにとぶ!?……ヤバイ、このまま向かいの石に当たりそう、死ぬ!?)



「ばーかーーやーろーーうーー!!」

トラックのおっさんが運転席から私の自転車をみて、そう言ってるようにみえる。


(…いや、ワンテンポ遅くない!?)





〝バタン!!!!”



「イッテエエェ!!!イテテテテテ。あーーまじイタイ。。……ん、………ん??どこ??え??

誰ですか!?!?ていうか、あなたなんで肌赤いんですか!?!?」

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