第1話 赤い国

〝ガーーーーーガガガ”

〝グォーーーーガガガ”

〝バンバンバンッ”



メイルの目覚まし時計はこの音だ。

彼が住んでいる地域は赤い国の北部、スーリ州。ここは工業地帯であり、住んでいるのは貧困層だ。

赤い国は他の二国と比べると一番文明が発展しているらしい。国民は怒りっぽい人たちしかおらず、何をするにしても弱肉強食社会。それゆえに貧富の差が激しい国だ。


メイルは毎朝父が鉄屑をクレーンで運ぶ騒音で目が覚め、こう思う。


『いつになったらこの生活が変わるのかな』


彼の家は貧困地帯の中でも一番貧しい環境にいる。弱肉強食ピラミッドの最下層だ。父は鉄屑を細かくして製鉄会社に販売する仕事をしている。朝から晩まで仕事をしているのに、全く儲からず常にお客さんから怒鳴られていて、ヘコヘコと謝っている姿をよくみる。


そんな父はメイルに対してよく暴力を振るっていた。虐待だ。メイルは父に勝てるはずもなく、黙って受けるだけ。ただ、この国ではそんな家庭はよくあることだ。怒りの矛先は迷った挙句に下に下に弱い人間へと行く。

いや、メイルはそれだけじゃない。近所の同年代からもいじめられてた。怒りの矛先を下向きにしたとすれば、ピラミッドを逆さまにした頂点にメイルがいた。

彼はそれが悔しくて、ただ何もできない自分に対して怒り、自分の体を傷つける事しかできない。



メイルは8歳の少年だが、当然学校には行っていない。というか、いけていない。金がないからだ。そして身体が弱く、ケンカなどした事もない。彼にはこのまま教育を受けることができず、父の仕事を受け継ぎ死んでいく将来が見えていた。



「おい!!!いつまで寝てんだ!!早く起きて手伝え!!!」


外から父の怒鳴り声が聞こえる。


「すみません!今行きます。」


メイルは飛び起きて雨の溜水を手ですくい、それをさっと顔に当てると拭きもせず走っていつもの作業場へ行く。彼の仕事は父がクレーンで拾いきれない小さな鉄片を運んで一箇所に集める仕事だ。それを一日中繰り返す。


(いつになったらこの生活が変わるのかな。

 いつになったら父親から怒られないようになるのかな。

 いつになったら僕にも怒れる人が現れるのかな。

……今日は変だ。いつもよりもイライラしてる。)




「おいメイル!メイル!!!どこ見てんだはやくそこの運べ!!!」


父の声が段々と遠のいていく。過去、父や近所のあいつらから受けた暴力を沸々と思い出す。

(もう嫌だ、こんな気持ちは2度としたくない。

この家も、スーリ州の人間も、この国もみんな無くなればいい。ふざけるな。こんなところ出てってやる!!!)

彼の思いは爆発し、家の工場から聞こえた父の怒鳴り声も無視して飛び出した。当てもなくとにかく気が済むまで走り続けた。

……息ができない、彼は自分の体力のなさに怒りながら走る。


「ふざけるな!ふざけるな!!ふざけるな!!!ばかやろぉぉうう!!!」



彼は右手に握りしめていた鉄屑を目一杯遠くに投げた。





〝カンッカンカンカン!!”


……どこに行ったかわからないが、何かに当たった音がする。

するとその刹那、あたりが急に真っ白になった。




「なんだこの風景…ここ……どこだ…!?!?」

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