自分を持たない風見鶏
一ノ瀬
第1話
就活で聞かれる「あなたはどんな人生を歩んできましたか」の言葉に、いつも言葉を詰まらせてしまう。咄嗟に口から、世間的に正しいとされる凡庸な人生を語る言葉が出てくる。これだから、つまらない人間だと言われるのに。それでも取り繕わないと、「私」という個体は、存在できる理由がなくなってしまう。取り繕って、取り繕って、化けの皮が剥がれて。これの繰り返し。本音でぶつかったことなんて、片手で数えられるほどの少なさだ。誰かの言葉に、批判なんてしたことない。例え、違うと思ったとしても、否定することなく嘘にまみれた言葉と笑顔で肯定する。本音でぶつかったって、角が立って後々面倒くさい。多分、私は人を信用してないしする気もないのだと思う。だから平気で、嘘をついてしまう。表面だけ仲良くして、その人にとって都合のいい優しい人になりきって、面倒になったら、離れる。だから心から、仲のいい友達なんて居ない。素の私なんて、愛されない、好かれない。わかっている。それなら、偽るしかないじゃないか・・・。
一旦深呼吸をして、毒々しい思考をリセットする。
少しだけ冷静さを取り戻し、いつから私はこんな人間なのだろうかと考えてみる。
あまり思い出せないけど、記憶を引っ張り出して思い返す。昔の私は、引っ込み思案なのにそこそこ友達がいた。女の子よりも、男の子と遊ぶ方が楽しくて、女の子に「男好き」とからかわれた。早くに、父親が家を出ていき母との暮らしになったが、特に不自由はなかった。人のことを信じられなくなるような、出来事はなかったはず。それにも関わらず、この頃の私はやはり、人との距離をとっていたような気がする。原因はなんだ?
わからない。どこで道を間違えた?
いつから心の痛みを理解できにくくなった?
考えてもわからない。
どうして。自分のことすらわからない。
ああ、生まれついての欠陥品なのか。納得した頃には、自分が自分で無くなる感覚に陥った。
結局、どんな人生を歩んできたかの問いに、嘘偽りなく答えられる日なんて来ないのだろう。
死ぬまで嘘と偽りで完全武装をして、独りよがりに生きていくのだ。
自分を持たない風見鶏 一ノ瀬 @suzu_k_
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