第2話 出会った

 僕の名前はアリス、こんな名前していても男だ。だけどこの名前のせいで学生時代はいじめられ、この身長も災いし女とまで言われた。


成人の施しを受けても周りからの目は変わらず、いつしか僕は家を飛び出していた。


そんなこんなでこの国にやってきた僕であるが、職を探しに来たのである。この体格ゆえ力仕事は無理に等しいが、学生時代に勉強と婚約してると言われたまでの勉強を重ねていたから学者ぐらいにはなれるんじゃないかと思っていた。


けど…現実はそう甘くなかったようで…

(成人の施しを受けてばかりの若造には国の発展の扉を任せるわけにはいかん!)

というふうにあっけなく断られてしまった。

やけになってなけなしのお金で買ったアルプを洗いもせずにかじってみても運悪く当たってしまい、一時間ほどトイレで足止めを喰らった。


完全にやる気もなくし、夕時にふと、人もいない船着き場で黄昏れていると、何やら声をかけてくる人物が現れた。

「よう兄ちゃん、どうしたこんな辺鄙な船着き場で海眺めちゃって、失恋でもしたのかい?」

「しっ、失敬な!そんなことじゃないですよ!」

「おっ、そんな焦っちゃってもしかして図星かい?」

「なっ!…」

それは三十代くらいのおじさんだった。タンクトップと作業服といういかにも職人という格好をして声をかけてきた。

そして何より…声がデカイ……

「ハッハッハッハッハッー!冗談だって兄ちゃん!だが、なんか迷ってるっていうのは本当なようだな。」

「ええ、まぁ…」

そう言いながら僕は今まで起きたことを順を追って説明した。


「へぇそりゃ笑えるような笑えないような話だな!」

「笑わないでくださいよ!」

「僕結構詰まってるんですよ!人生に!」

「兄ちゃん、若いもんがそうそう人生行き詰まってるとか言っちゃいけねぇなー、それも男が。お前さんはよぉいくら身長に自身がなくたって男だ!それだけで自分に自身が持てる、素敵なもんだろう?俺らみたいに気楽な奴らは夢だって見放題だし、何してもいいと思ってる。だがそれぐらいがいいんだ。何事にも詰まってると思うんじゃなくてその状況でもあがいて楽しんじまえ!それがロマンだ!ハッハッハッハッハッ!! そんじゃ強く生きろよ!」

「あっちょっと待ってください!」

「なんだぁ俺はこれから夜の街に繰り出さなきゃいけないってのに」

「よければ、あなたのお名前を聞かせてくれませんか?!」

「おういいぜ!俺の名はサトル!お前さんは?」

「僕はアリスって言います!」

「おう!いい名前だな!そんじゃ頑張れよ!アリス!!」

「はい!」


そう言うと彼は近くにあった工場と思われる建物に入っていった。これから夜の街に繰り出すって言ってた気がするけど気のせいだろう。

(そういえばあの人、僕のことを最初っから大人として見ててくれてたなぁ)

そう心の中で思った。


時刻はおそらく夜の11時くらいであろう、僕は門の真反対にある海岸に居た。

宿は取ったものの不安で眠れずつい足を運んでしまっていたのだ。

「この国は夜も騒がしいなぁ」

そう独り言をつぶやき、しばらく耽っていると、あることを思い出した。

(そういえばこの国にはこんな掟があったな)


“この国ではお話や童話を読んではいけない。そして、それに関連する物、生物との交流を禁ずる”


自分自身、幼い頃に童話はいくつか読んでいたこともあり、これに関しては疑問しか湧いていなかった。しかもこの国は住民が国外に出ては行けないという頭のおかしい法律もあって、この国の輸出物などは他国の間者が行っているという。

(なんでだろうなぁ、まぁ他国の法律に口を挟む気も今は起きないし、宿に戻って寝てみるか)


そう思った矢先、割と近くで水の跳ねる音がした。

「えっ?」

その音は次第に近くなってくる。

”ピチョン“という音が次第に”ザバッ“という大きい音に変わっていく。

それを聞いて僕は同様を隠せなくなった。

何かが襲ってくるのではないか、恐ろしい自然現象でも起こっているのか、そう自問自答を繰り返さずにはいられなかった。

逃げようと思った矢先、僕は気づいた。

(足が動かない!)

ふざけているのではない、足が恐怖ですくんでしまっているのだ。

「なんでこういうときは動かないんだよ僕の足!散々この足使ってきてやったのにこういうときは僕の事を裏切るのかよ!」

そんなことを言っている間に跳ねている水が僕の頬を湿らせた。

“もう終わりだ”

そう思い、振り向くと、そこには目を見開き、同時に奪われてしまうものが写っていた。


下半身は魚の尾びれのようだが体はまるで人間の女性のよう、きれいに整ったその顔はまるで何カラットでもあるような美しさを醸し出していた。

「人…………魚…………」

幼い頃に見た童話に書かれていた伝説の生き物が目の前に現れたことに僕は心も、ましてや体の制御まで奪われたように固まってしまった。

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