第17話 (第2章エピローグ)新しい家族

 ディオラルドさんは狩人を魔法の縄で引っ張ってくる。狩人は泣きわめいて逃げようとしていたが、ディオラルドさんが耳元で何かをささやくと青ざめて急に大人しくなった。

 ……何を言ったんだろう?

 そしてディオラルドさんが「俺が責任を持って彼を警備兵に引き渡す」と爽やかな笑顔で言った。


「もう夜が明けてしまう。そろそろ家に戻ろう」


 そうディオラルドさんに声をかけられて、私は手の中の小鳥を見つめる。

 そばにいるうちに愛着が湧いてしまい、離れがたい気持ちになっていた。


「ねぇ、ディオラルドさん。この子、一緒に連れていっちゃダメかな?」


「ええっ!? 不死鳥を飼うってこと!?」


 私の言葉に、ディオラルドさんは仰天していた。


「いや、飼うっていうか……一緒に暮らす? みたいな……」


 さすがに不死鳥を飼うなんて、無礼な言い方はできない。天下の不死鳥様だ。

 ──だから飼うんじゃなくて、家族になりたい……みたいな。

 お父さんが許してくれるかな。急に心配になる。

 ディオラルドさんは重々しく首を振った。


「……不死鳥を飼うなんて、とんでもないことだ。もし王家に知られたら、絶対に彼らが黙っていないだろう」


 グランディア王国の神聖なる不死鳥だ。始祖王を選んだ神鳥。

 これまで、ほとんど伝説の中だけの存在だった。

 それがリッター家にいることが知られたら、国中が大騒ぎになってしまうだろう。


「それに、野生の生き物と暮らすのは難しいよ。そっとしておくのが一番だ」


 ──確かに、ディオラルドさんの言う通りなのかもしれない。

 私はしばらく小鳥を撫でて堪能した後、そっと不死鳥の巣の中へ小鳥をおいた。

 不思議そうに小首を傾げる小鳥に、罪悪感が湧いてくる。


「ごめんね。色々ありがとう。……また、どこかで会えたら会おうね」


 そう言って手を振り、そこから離れた。

 だが、小鳥は必死に私の後をついてくる。

 それに気づいてまた巣に戻しても、何度でも私の後を追ってくるのだ。まるで、親を追いかける雛鳥みたいに。


「あちゃ〜……もしかして、フィーのことを親だと思ってるのかも……」


 ディオラルドさんが頭を抱えていた。

 私は両手で小鳥を抱えて、ディオラルドさんに言った。


「一緒に連れて行ってもいい? ディオラルドさん、お願い」


「……分かったよ。まだ小鳥だし……今は連れて行っても良いけど、もしアガルトに『元の場所に戻してこい』って言われたら、おとなしく巣に返すんだよ?」


「うん」


 私はうなずいた。



 ◇◆◇



 その日の明け方、父が息を切らしながら家の玄関扉を開けた。

 私とディオラルドさん、クラウスも、ようやく家に戻ってきたばかりだったので、目を白黒させてしまう。


「え! お父さん、おかえりなさい。早いね」


 確か、早くても一週間はかかるんじゃなかったのか?

 まだ一日しか経っていないというのに……もしかして忘れ物だろうか、と心配になる。


「……急いで仕事を終わらせてきた。心配で落ち着かなくてな」


 父が私を見て、ほっとした表情をしていた。

 一日ぶりに父の顔が見れてうれしい気持ちになる。


「お父さん。この子、一緒に暮らしても良い?」


 私は両手の上に乗った小鳥を父の眼前に掲げる。

 父はようやく不死鳥の存在に気づいたようだ。片眉をあげて、あっさりと言う。


「良いぞ。ただし、ちゃんと世話をするんだぞ」


「は〜い」


「ちょ、ちょっと待ったぁぁあ!! アガルト! お前、何考えてんだ。そんなアッサリと!! 『ちゃんと世話をするんだぞ』じゃないだろっ! 犬猫飼うのとは訳が違うんだぞ!? 不死鳥だぞ、不死鳥!」


 父と私のやりとりに、割って入ってきたのはディオラルドさんだ。

 ──もしかして、ディオラルドさんは父が却下すると思っていたのだろうか?


「別に良いだろ」


「いや、ダメだろ」


 父の言葉に、間髪入れずディオラルドさんが突っ込む。


「何がダメなんだ?」


「いや、だって王家が……それに不死鳥って……」


「王家なんて、どうでも良い。フィオナが望んだ。それが俺にとって全てだ」


 迷いのない口調で言った父に、ディオラルドさんが心底呆れたような顔になる。


「お前……清々しいまでの娘バカだな」


「おい、ディオラルド。今のフィオナの顔を見ても、そんなことを言えるのか?」


 父がそう言った。

 ディオラルドさんが私を見つめてくる。

 私は小鳥と一緒に暮らせることが嬉しくて、いつの間にか顔がにやけてしまっていた。視線を感じて表情を引き締めたが、一足遅かった。

 ディオラルドさんはため息を落として、「仕方ないなぁ」と苦笑する。


「俺もフィーの笑顔には弱いから……降参だ」



 私は小鳥に『ルル』と名付けた。

 こうして、不死鳥はリッター家の一員となったのだ。





第二章 おわり

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