第11話 ポーションの活用方法
芋や人参、玉ねぎを大きめにざっくり切って、大鍋で煮込んでいく。
匂い消しの薬草をひとつ混ぜたついでに、棚から取り出したポーション瓶の中身を半分ほど注ぎ入れた。
その様子を見ていたクラウスがぎょっとしたように言う。
「えっ、何してるんだ!?」
「え……ポーションを入れてるだけだけど……?」
依頼がくるたびにポーションは作っているのだが、ぴったりの量は作れなくて余ってしまうことが多い。それに、いざという時のためにリッター家ではポーションの常時ストックがあった。ただ、ポーションは飲み物のため、消費期限があるのだ。
期限が迫ったものを捨てるのももったいないので、料理や飲み物に少しずつ混ぜて使っている。そうすると、肩こりや体の疲れが取れて、夜もよく眠れるのだ。
そう説明すると、クラウスは渋い顔をする。
「う、う〜ん……なんか、もったいないような……。オレだったら期限が迫ったものは半額にして売るけど」
確かに、ポーションは庶民が気軽に使えるようなものじゃない。金貨が何枚も必要なので、売る相手も貴族か、王家、傭兵などが中心だ。
普通の人なら体力を回復させたいだけなら真っ先に寝ることを選ぶだろう。何より無料だ。
「う〜ん。なぜか、うちはお父さんが安売りはしないんだよね。まぁ、こうして自分達で使うのも便利だから、処分には困ってないけど」
私は顎に手をあてながら、そう答えた。
──でも、魔法使いの家なら余ってもおかしくないだろう。
「……うちではよくやってることだけど……。あなたの家ではそうじゃないの?」
クラウスは自嘲するように笑みを浮かべ、否定した。
「ポーションの原料になる薬草だって、タダじゃないだろう。オレは依頼があれば師匠の研究室を借りて作るけど、余るほどの量なんて作れないし、もし余っても、母さんか幼い弟妹にあげるから……自分では、ほとんど飲んだことはないな」
──あれ?
私は、ふと違和感を覚える。
クラウスって、公爵家の人じゃなかったっけ?
それなのに、こんなふうにお金に困っているような発言をするのが引っかかった。
──あ、そっか……私が知っているのは未来のことだから……。クラウスは、まだ公爵家に入ってないのか……。
クラウスはグーラ公爵家の養子だと、王立学園在学中に女生徒達の噂で聞いたことがある。今の今まで、すっかり忘れてしまっていたが……。
確か、クラウスが幼い頃に父親が亡くなり、病気の母と幼い弟妹がいたから、一人で働いて家計を支えていたらしいけど……母親が亡くなってからは遠縁の公爵家に弟妹達と共に引き取られたと……。
魔法の才能を見いだされて、公爵家の跡取りとなり、王立学園の魔法科に入ってきた……という流れのはずだ。
「なるほど……」
え?
まって。
ということは、クラウスの母親は近いうちに亡くなってしまうってこと?
私はそれに気づいて、血の気が引いた。思わず口元を押さえる。
だが、さすがに未来のことを話すわけにもいかない。内容も内容だ。
気まずくて、クラウスと目を合わせられなくなる。
「お、おいっ、鍋が吹きこぼれてるぞ」
クラウスにそう声をかけられて、私は慌てて火力を弱めた。
「わっ、ごめん……」
料理中に考えごとは良くない。
とりあえず、先にご飯作りに集中しよう。
考えるのは後だ。
「クラウス、煮込み料理お願いできる? 鍋が吹きこぼれないように見てて。あくが出てきたら、おたまですくってね。塩コショウで最後に味付けして」
「おう。任せておけ」
クラウスがそう言って、私からおたまを受け取った。
私は今朝【謎の相手】からもらった木の実を洗って、種を取り除いていく。
籠に入れて天日干しにしても良いし、砂糖を入れてジャムにしても良い。
とりあえず今日のぶんは干しておくことにした。
数日前から窓辺で干しておいた果実を取り込み、魔導冷蔵庫で寝かせておいたパン生地に混ぜて、バターを敷いた平鍋で生地を焼いていく。
良い香りが台所に広がり始めた頃に、玄関の呼び鈴が鳴った。
クラウスが迎えに出てくれて、ディオラルドさんが片手をあげて台所に入ってくる。
「やぁ、フィー。二人とも仲良くしてたか?」
「うん!」
私が笑顔で、そう返した。クラウスは「う、うん……」と、ぎこちなく返事をする。
ディオラルドさんは「よし、えらいぞ」と言って、私に何か袋を渡してきた。
中を覗くと、人数分のケーキが入っていた。
「わぁっ、ケーキだ」
私とクラウスはそう喜ぶ。ディオラルドさんは魔導炉の上にある鍋の方に目をやる。
「食事の後にケーキを食べよう。夕食は俺が二人に作ってやるつもりだったけど、一足遅かったな……。悪い。まぁ、俺はフィーの料理をまた食べれるからラッキーだけど」
ディオラルドさんの言葉に反応したのは、クラウスだった。
「えっ、師匠……フィオナのご飯食べたことあるの?」
「ああ。俺はよく仕事でここにくるし。何度か泊まらせてもらってるし」
ディオラルドさんはそう言った。
「ディオラルドさんは、もう半分家族みたいなものだもんね〜」
私は微笑んで言った。
彼は父の親友でもあるし、私にとっては年の離れた兄のような存在だ。
なぜかショックを受けている様子のクラウスの背を叩き、ディオラルドさんは「じゃあ、ご飯を食べようか」と皆を誘った。
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