油は譲っていただけますか?
『まぁまぁまぁまぁ、皆様おそろいで。あら、お客様?』
バーンクリット家にお泊まりが決定したそのすぐ後、銀色の髪を腰まで垂らし、紫色のローブを着た華麗なご婦人が居間にやって来た。
『ブレンナ、今頃お出ましか』
お父様が少し不機嫌そうにそう言うと、
『そうは言いましても工房の大掃除は大変ですのよ! …ん?』
華麗なご婦人は大掃除をしていたようだ。そのご婦人は、
『どこかでお会いしませんでした?』
そう言うのであった。
『お母様、お久しぶりです。エリアリアーナでございます』
一瞬ご婦人が固まる。
『エ、エ、エ、本当にエリアリアーナなの?』
『シンロブモントおじさまに確認を取っていただきました』
『本当に、本当なのね?』
『はい』
そう言うと、お母様は、
『よく無事で。よく無事で戻って来ました。母は嬉しいですよ!』
『ただ今戻りました』
『まぁ、それは大変だったわね』
お母様はそう言うと、
『エリアリアーナが飛ばされた後、転移魔法が使われたことは感知していましたから、アヴァリンに問い詰めましたが、アヴァリンも、意図してやったことではなく、言っていることの要領を得ませんでした。リチャードは、捜索に出ようと言い出しましたが、そもそもどこに探しに行って良いやら分らず、捜索願をあちこちに出すだけにとどまり、議論だけで月日は流れ、結局捜索には出なかったのです。まさか、異世界に飛ばされていたとは…。』
お母様は、「お触れを出して、探しても見つからないはずだわ」。そうこぼすのであった。
それで、捜索願を出したことによって、エリアリアーナの行方不明だけは世間に広がり、「私、あなたの娘なんです!」と、見ず知らずの娘が時々、何不自由ない暮らしに目がくらみ、やって来ては魔道具で確認して、追い払うということがあり、いつの間にかそれに慣れた。
『もう見つからないものと、一生会えないものと
話が一区切りついたのを見計らって、二郎が発言をする。
『あの、ご紹介いただいてよろしいでしょうか?』
『あら、まぁ、そういえば、まだだったわね』
お父様はリチャード、お母様はブレンナ、お兄様はチャールズ、妹はもう紹介済みだがアヴァリンと言うらしい。
『そちらのご家族も紹介していただいてよろしいですか?』
旦那の二郎、妻の
『そして』
剣士のジョルダン・カーライル、魔術師のカトリーナ・アンリエッタ、治癒魔術師のメリーア・メンドローサ、メイドのマヤ・ステインと、順に紹介するのであった。
『積もる話しもありますが、お時間ですし、お食事に致しましょう』
俺たちは食堂に招かれ、
『さぁ、遠慮なく召し上がれ』
出されたのは料理のフルコース。メインはお魚のフライであった。
「これで油はもらえるわね」
この家庭の味付けは城のものより味が濃かった。俺は「あぁ、
食事が終わると、
「じいじ、じいじ」
と、言い出した。すると、部屋の空気が一瞬凍る。
「
と、
「おじいさまに年齢のことは言ってはなりません!リチャード様とお呼びなさい!」
どうやらこの家庭では、年齢に関することはタブーらしい。
『なぁエリアリアーナ、外国語で分らなかったが、今、何やらイヤな呼ばれ方をしたような気がするのだが』
『聞き間違いではございませんか?何もありませんでしたわよ』
「ホホホホホ」と言って、外国語であって、意味を取れないことをいいことに、
『…それでですね、お姉様にキャンピングカーに乗せてもらう約束をしたのですわよ』
『ほぉ。そんな珍しい乗り物ごと転移してきたのか』
他愛のない話をしていると、話題はキャンピングカーに移った。
『何でも、燃料?に、調理場から出た油が必要とのことで、それでお姉様方は我が家にお戻りになったのですわ』
『まぁ、燃料は、馬にとってはエサみたいなものです』
『でも、車は生き物ではありませんのよ』
バーンクリット家の面々は、キャンピングカーに興味を持ち、明日、
「大勢で食べるとてんぷら油も大量だな。タンクがいっぱいになった」
客室に戻ると、
「あなた、いつも早いわね」
「ちょっとキャンピングカーに油を入れてきた。後ろのタンク、いっぱいになったよ」
「あらそうなの。置いておいてもらえば、結構油の心配ってそれほど気にするものじゃないかもね」
そう話していると、
「ママ、パパ、おはよう」
子供たちも起き出すのであった。
朝食の席で、リチャードお義父様は執事のセバテベスさんに、
『今日の登城は昼からにする。そう、城には伝えてくれ』
『かしこましました』
朝食が終わり、キャンピングカーを玄関に回してきた。しかし、全員は乗れない。そこで乗るのは麻宗家一家と、バーンクリット家一家に、念のため、カーライルに乗ってもらい、アンリエッタ、メンドローサ、ステインには家で留守番をしてもらうことにした。
全員を乗せ、
『さぁ、出発!』
俺の運転で、
城下町の徐行区間を抜け、東門から出てしばし。人気のない街道が続く。
『わぁ、速いしあまり
『椅子がふかふかだな。どんな構造になっているのだろう?』
バーンクリット家の面々は、初めての車に年も性別もなくはしゃいでいた。
俺は調子に乗って、アクセルをべた踏みし、全速力を出してみる。
『おぉ、速い速い!』
バーンクリット家に面々には好評のようだ。
そしてしばらくして、
「チッ、邪魔ね」
と、言い、
『大気を潤す大いなる風の神よ、我に大いなる力を分け与えたまえ』
『スペシャル・ブラスト!』
すると、道の先の先のずーっと先で、で
「なぁ
「ちょっとゴミ掃除を」
…深く聞くのは
しばらくすると、あまり身なりの良くないゴロツキが、道を空けるように、道の両端に倒れ伏しているのが一瞬見えた。
「あれ、
「まぁね♪」
そこ、あまり機嫌を良くするところじゃないと思うんですけど!
「ちょっと速度を落として!」
ふいに
俺は速度を落とし、
「そこの洞窟に入ってね」
『ほぉ。ドルゴネルの洞窟か』
そこはトンネルのような洞窟であった。
俺は、電動モードに切り替えて、ライトを付けて、さらに速度を落として進む。
「もうそろそろかしら。止まってライトを消してね」
俺は言われたとおりにする。
『ほぉ』
『これはまた』
洞窟をしばらく走り、もう全く光が入ってこないはずであった。しかし、壁がほんのり緑の光を放ち、幻想的な風景になっていた。
『こんなに奥へ入ったのなんて初めて』
『ほぉ。奥はこんなにもバトクリフ苔がいっぱいなのか』
綺麗な光景に、全員、しばらく見とれていた。
「さぁ、もう少し走ると開けた場所に出るわ。そこでUターンしましょう」
言われるがままに走ると本当に開けた場所へ出た。そこで車をUターンさせ、来た道を戻る。
『エリアリアーナ、お前の
『いいえ、魔法の練習なんて、長いことしていませんでしたから、あの頃のままですわ』
そして、王都のバーンクリット邸へと戻り、ちょっとした家族小旅行が終わった。
『あんなに速く走るのに揺れが少なかったな』
『水飲みや休ませる手間がかからなくていいわね』
バーンクリット家の面々は様々な感想を言い合っていたが、
『車って便利ですわね』
その一言に、尽きると思った。
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