初めての魔法の練習

『天におわす父なる神よ、地におわす母なる神よ、我に大いなる力を分け与えたまえ。ファイアーボール!』


 王妃に報告したり、かおるの妹に会ったり、図々ずうずうしく城に泊まったりした翌日、俺たちは誰も来ない、荒れ地で魔法の練習をしていた。


 息子の風雅ふうがは火の玉を、娘の花菜香はなかは氷の玉を、初めての魔法に興奮して、ポンポンと投げてキャッキャと喜んでいる。かおるは、


『とりあえず、初心者は、「天におわす父なる神よ、地におわす母なる神よ、我に大いなる力を分け与えたまえ」って言って、魔法名を唱えるの。本当は効率とか効果を考えると頼む神様は違ってくるんだけど、天の神と地の神はオールマイティーだから♪』


 そんないい加減でいいのか魔法というものは!


 まぁ、こんなファンタジーな経験、日本じゃできないから、好奇心半分でとりあえずやってみよう!


『ファイアーボール!』


 おぉー!火の玉が出た!。当たったら熱そう。


『アイシクルボール!』


 今度は氷の玉が出た!当たったら痛そう。


『ファイアーアロー!』


 火の矢に、


『アイシクルアロー!』


 氷の矢に、


『サンダーボルト!』


 落雷。これの上位版がビッグゴスゴリルを倒したんだな。




 皆でポンポン攻撃魔法をぶっ放していると、


「何だか疲れてきたー」


 風雅ふうがが疲れてきたと、言う。かおる風雅ふうがの前にしゃがみ、


「あらあら、ちょっと待って。『フーエル・レムナント』。うん、魔力切れね。ちょっと休んでいようか」


「やだ!まだ遊ぶの!」


「まだ遊びたいの?じゃぁ、ちょっと待ってね」


 かおるはキャンピングカーに戻り、何やら荷物をゴソゴソ探し出し、すりこぎでごりごり、液体をたらーりとたらして、何やら作った。


「フウ君、これを飲んで疲れが取れたらまた遊んでもいいからね。味は悪いけど飲むのよ」


「うん、分った」


 風雅ふうがかおるが作った薬を一気にあおる。


「まずー、にがー」


 風雅ふうがはしかめっ面をして、苦みに耐えていた。


「じゃぁ、あそこで休憩していてね」



 風雅ふうがを相手が終わったら、


「私も疲れたー」


 今度は花菜香はなかの番であった。




 後で聞いた話だが、魔力は自分で減ったと感じる程使って、足りないと感じると、体の魔力がちょっとずつ増えるのだそうな。いくつかある最大MPの増やし方の一つだそうだ。




 花菜香はなか風雅ふうががぐったりとして、岩に腰掛けて休憩している間に、かおるがこちらにやって来て、


「残量いくらかな?『フーエル・レムナント』。!?」


 ん?何?その表情?何だか不安になるんだが…


 かおるはしばし考え、


「あなた、魔力結構あるのね。これくらいの強度の魔法じゃぁ、魔力切れはなさそうね。いっぱい練習してね♪」


 かおるはそう言ったので、今日は魔力切れはしないのだろう。俺はポンポン出して、魔法を楽しむのであった。




 俺たち家族組とは別に、点々バラバラ、離れたところで練習しているのが他のパーティーメンバー。何でも、強力魔法を使うので、結構離れていないと危険だそうで、それに、それだけの強度でなければ練習にならないのだそうな。かおるは、そちらの方にも気を配り、何やら話しかけている。うん、攻撃魔法のアンリエッタや、治癒魔法のメンドローサには、教えをう立場だと最初はずーっと思っていたが、かおるの覚醒で、何やら立場が逆転したっぽい。


 …二人とも、がんばれ。



 意外だったのは剣士のカーライルだ。てっきり肉体労働専門だと思っていたが、ちゃんと魔法も使えるようだ。


 …さすがにアンリエッタやメンドローサの魔法には及ばないけどね。



 花菜香はなか風雅ふうががぐったりとしてはかおるに苦いらしい薬を飲まされ、元気になってポンポン魔法を使ってはしばらくしてぐったり。そんなことを繰り返していたら、3時になった。



 …時計、使えたんだよ。1日の時間、地球とこの星、ピッタリだったんだ。くせで腕時計、付けっ放しで昨日、それに気づいたんだ。気づくの遅いよ!俺!




 かおるがカーライルと話し込んでいる。花菜香はなか風雅ふうがはぐったりとしていて動かなさそうだ。ちょうどいい。俺はそちらへ向かい、


『おーい、ここらへんじゃぁ、まきも集められないし、ベースも作れないだろ?ご飯や寝る場所、どうするんだ?』


『そうねぇ、移動しなきゃならないわね』


『じゃぁ、今日はこの辺りで切り上げて、泊まる場所の確保と料理をしましょうか』


 パーティーメンバー全員を集めて、これ以上ここにたら、夜に困ったことになることを説明し、キャンピングカーで移動だ。


 俺は運転していて気付いた。


『キャンピングカーの燃料、もう半分使ったな。後ろのタンクの燃料を入れれば満タンになるが、早めに補給先、探さないとな』


『そうね。揚げ物したときじゃなきゃ油なんて出ないし、あなたの言うとおり、補給先は大事よね』


 結局、燃料探しにベースの場所探しではなく、王都に引き返すことになった。




 向かった先は、バーンクリット家。かおるの実家だ。


 …いつもいつも王城に行ってられないしね。何だか図々しい気がするし。



『お嬢様とご家族の皆様、お帰りなさいませ。パーティーメンバーの皆様いらっしゃいませ』


 門番とそんなやり取りをし、俺は車を玄関に回し、みなを降ろした後、駐車場らしきところに車を停めた後、おれも邸内に入った。



『まぁまぁ早速おいで下さいましたのね!心より歓迎致しますわ!』


 出迎えてくれたのは、かおるの妹のアヴァリンお嬢様だ。


『一旦城下町を出たんだが、車の燃料の補給先を探さないといけないことに気付いてね。いきなりで悪いけれども今日はお世話になっていいかな?』


『もちろんですとも!泊まっていって下さいな』



 「立ち話も何ですし」と言われて、応接室に通された。お菓子とお茶を振る舞われて、


『まぁ、使った油で車?というのが動きますの?馬車のように移動に使いますの?面白いですわね』


『何なら一度、乗ってみます?』


『あら?お姉様、いいの?では一度乗せて下さいませ。ちょっとセバテベス』


 アヴァリンお嬢様はセバテベスと話し、残り油があれば取っておくように伝え、セバテベスはゆっくりと部屋を出た。


 しばらく話していると、セバテベスが戻って来て、


『旦那様とお坊ちゃまがお戻りになりました』


 そして、玄関ホールでお出迎えすることになった。シンロブモントさんもた。



『ふぅー。とんだ無駄足だったな。お出迎え、ご苦労 …ん?』


『本当ですよ、お父様。まさか討伐された後だったとは。 …ん?』


『お父様、お兄様、お帰りなさいませ …ん?』


 …そこは真似しなくてもいいからアヴァリンお嬢様。


 紫のローブを着た60才くらいの男性と、同じく、紫のローブを着た俺と同い年くらいの中年男性が入ってきた。


『お父様、お兄様、お久しゅうございます』


『そ、そなた、エリアリアーナか!』


『そうですわ』


『おぉ、昨日手紙で知ったが、すれ違いになると思っていたぞ!こんなに早くに会えるとは!』


 かおるとお父様とお兄様は久しぶりの再開に、感極まって抱き合った。心温まる光景だ。


『よくぞ!よくぞ戻って来た!今日は泊まって行きなさい』


『はい。そうしますわ』



 そして、お父様とお兄様も一緒に、応接室へ戻った。


  かおるは、昨日と同じように、文化も言葉も分らない、異世界日本に飛ばされ、孤児として苦労したこと、あちらではかおるという名で過ごしていたこと、俺と結婚して2児のママになったこと、今回勇者に選ばれた俺に引っ張られる形でこちらに戻って来たこと、勇者のパーティーとしてカーライルたちを付けられたこと、あまりにも辛い過去で、こちらで暮らしていたことを、つい最近思い出したことを簡素に、しかし要点は掴つかんで語った。


『ふむ。そんなことになっておったか。でもしかし、生きておってくれたことが嬉しいぞ!』


『そうだとも。それに、こちらで過ごすのであれば、ちょくちょく家に寄って顔を見せに来なさい』


『ありがとうございますお父様、お兄様』


 お言葉に甘えて、その日はバーンクリット家に泊まるのであった。

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