薫の覚醒

 しばらくそこに滞在して、連携訓練をした後、城下町で食料を買いだしてから次の場所に向かう。


 今回は森の中だ。キャンピングカーは森の中には入れないので、ベースは森の外れとなった。



 準備をして次の日。討伐訓練である。


『森の中という障害物があり、行動が制限された中での戦いも覚えて下さい』


 カーライルからそんな目標がかかげられ、訓練は開始された。



みな様よくまわりが見えるようになってきてます。素晴らしい成長です』


 そう、カーライルがめると、


『森の中での戦闘では慣れない者は、木に剣が刺さって動きを封じられるという失敗をする者もたまにるのですが、それもなく、みな様頑張っているようで嬉しいです』


 と、アンリエッタからもめられる。今日は甘やかされる日なのかも知れない。ヤッフー!




 そんなこんなで森に入ってから4日が過ぎ、訓練は順調に進んでいた。


『今日の訓練も順調ですね』


『それではもう少し奥まで行きましょうか』


 カーライルとアンリエッタがそんなことを話ながら、一行は奥へ奥へと進んだ。今思う。そんなに急いで奥へ進むから危機が訪れるのだと。



 奥へ進んでしばし、視力を強化していたメンドローサが、


『前方に巨大な敵発見!敵に見つかりました。避けられません。こちらに向かってきます!』


みな、全力で逃げるぞ!退避-ー!!!』


 俺は剣をさやにしまい、花菜香はなか風雅ふうがを両脇に抱えると、みなに続き、一目散に逃げた。


 しかし、敵の方が進むスピードが速い。徐々に差を詰められ、


『ビッグゴスゴリルじゃないか!中ボスクラスじゃないか!我々ではとても戦えないぞ!』


 逃げ切りたいが、徐々に差を詰められる。雰囲気が緊迫してくる。かおるは後に、その緊迫感で、記憶の中の戒めが解けたと言っていたっけ。


 差を50mくらいに縮められたところで、何やらかおるがぶつくさと唱え始める。


 30m。もう終わりかと思った瞬間、かおるが叫んだ。


『エクスペリメンタル・シリンダリカル・シールド! みな、盾の中に入って!』


 かおるの言うとおりに光の盾の中にみなが入った。ビッグゴスゴリルがやって来る。もうお終いだと思った瞬間、


”ガキーン!”


 ビッグゴスゴリルは盾に跳ね返された。かおるはまた何かをつぶやいている。


 ビッグゴスゴリルが何度も攻撃しようと手を振り下ろすが、全ての攻撃が盾に跳ね返される。訳が分らない。安心する余裕もない。


 かおるが目を見開き、


『エクストラ・サンダーボルト! はじけろーー!!!』


 すると、ビッグゴスゴリルに特大の雷が落ち、言葉通り、ビッグゴスゴリルの巨体は体内に爆弾があり、それが爆発したかのように、バラバラに弾け飛んだ。


『ふぅー。間一髪思い出しました。いやー、忘れていたなんて情けない』


 と、かおるは事もなさげな表情で、そうつぶやいた。


『えーーー!!どうやったんですかあの魔法!エクスペリメンタルクラスを維持しながらエクストラクラスの攻撃を食らわすなんて!かおるさん、あなたが攻撃魔法が使えるって今まで全然聞いてませんでしたけどーーー!?』


 攻撃魔法の名手、メンドローサが吠えた!いつもの口調を崩しながら。


『ごめんごめん。あまりに辛い思い出とセットだったから、今まで記憶の中に封印されちゃってたみたい』


 かおるはちょっとしたイタズラが見つかったみたいにばつの悪そうな顔をしながら舌を出してそう答えた。



 今の衝撃で、戦闘続行不能と、一行は早いがベースへ戻ることにした。いや、肉体的にも、精神的にも。帰りの道中で、


『私、こっち生まれでさー、こっちでは、エリアリアーナ・バーンクリットって言う名前でさー、結構いいところの娘だったんだよねー』


『え!バーンクリット家って、あの、バーンクリット公爵家ですか?あの、天才魔術師を大量に輩出する!』


『うん。それっぽい』


『『『えぇぇーーー!!!』』』


『バーンクリット公爵家の出身なら、あの魔法も納得です』



 カーライル、アンリエッタ、メンドローサ、ステインのこっち出身のメンバーは目を見開いて驚いていた。うん、俺、情報不足。話しについて行けないね。


 かおるの爆弾発言らしい発言が飛び出したところで、みな、静まりかえった。うん。俺にとってはかおるがこっち出身って言う方が爆弾発言なんだけどね…。


 それから、かおるは、こっち出身のメンバーに質問攻めにっていた。うん。半分も分らなかったよ… 俺、蚊帳かやの外。話しについていけないね。かおるの夫なのに… ちょっと寂しい。



 そして、ベースに戻った。夕食の準備をしながら、



かおるさん、早めに実家に戻りましょうよ。ご家族もずっと心配していましたよ』


『妹さんもやんでいらっしゃいました。自分のせいで、家族が離ればなれになったって』


『そうだねー。一度実家へ戻るか』


「おいかおる、俺にも分るように説明してくれよ」


 ちなみにショックから立ち直れず、俺はまだ、花菜香はなか風雅ふうがを両脇に抱えていた。


「パパ、そろそろ降ろして」


 ちぇっ、今まで誰も指摘してきしないのかよ!



 かおるの説明を要約するとこうだ。


 昔、かおるはバーンクリット公爵家という、この国では名家と呼ばれる家に生まれ、蝶よ花よと何不自由なく暮らしていた。家、というかお屋敷には魔術に関する蔵書が多くあり、読むのが楽しくて、どんどん知識だけは吸収していったんだそうだ。ちょっとした便利魔法なら試せるけど、攻撃魔法のたぐいいなんかはいくら広いお屋敷とはいえ、気軽に試せるものじゃない。知識だけというのはそう言う意味だ。


 で、かおるには、妹がて、些細ささいな喧嘩で妹に「お姉ちゃんなんて、いなくなっちゃえばいいのよ!」と言われて日本に転移させられたのだそうだ。


 …転移って気軽におっしゃいますけどかおるさん、最近俺たちが転移させられたのって、一体何人の灰色ローブさんがいたとお思いですか?そんな小さい子が癇癪かんしゃくで、魔法陣の用意もなく転移だなんて、オタクの家系はどんだけ基本スペックが高いんでしょうか?


 丁寧に説明されて、今さら驚いた。できればこの驚きを、仲間と一緒に味わいたかった…


かおるー、俺も一度お前の実家へ行って、挨拶くらいはした方がいいんじゃないか?』


『それもそうね。それでは家族で近いうちに実家へ戻りましょう』



 やっとかおるも家族で実家に顔を出す決心がついたようだ。


『それなら早い方がいいですね』


 最近行動指針を牛耳ぎゅうじっているカーライルさんも乗り気だ。


『それならついでに旦那さんやお子さんに魔法の手ほどきをして、遠征した先で練習するというのはどうですか?』


 アンリエッタさんも乗り気だ。


 しかし、かおるが良家のお嬢様だと知れた途端とたんかおるが主役で、俺と子供たちが添え物扱い。一応俺、勇者なんですけどー。


『それなら早い方がいい。明日、王都へ向かいましょう、そうしましょう』


 カーライルの発言に、アンリエッタ、メンドローサ、ステインが頷く。俺たちに拒否権は無かった。


『しかしかおるー、いきなり現われて、「私、昔生き別れた娘なんです!」って言って、相手に信用されるのか?』


『それなら大丈夫。血縁関係を調べる魔法があるから』


『…さいですか』



 それからメシ食って寝た。こんなややこしい日は早く寝るに限る。全速力で逃げて、疲れたというのも大きい。とにかく続きは明日だ明日!

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