薫の帰省

 妻のかおるがいいところのお嬢様で、俺たち他の家族が他のパーティーメンバーから添え物扱いになるという衝撃的な出来事が起きた次の日、朝食を食べ終えて、かおるの実家に帰省することに昨日決まったので、移動できるようにテントを片付ける。


『今日はあなたに頼み事があるから私が運転するね』


 と、かおるが宣言すると、他のパーティーメンバーから反発を食らった。


『なりません、公爵家令嬢に御者ぎょしゃをさせるなんて!』


御者ぎょしゃなんて二郎さんのように下々の者がすることです。どうかお考え直し下さい!』


 ひどい言われ様だな!俺。


 俺は何か用事があって運転できないらしい。俺の他に運転できるとしたら、かおるしかいない。


 俺は仕方なく助け船を出す。


かおるは運転が好きなんだ。好きなものを取り上げてくれるな。それとも何か?お前たちが運転してくれるのか?運転できるのか?』


 こちら出身のパーティーメンバーは、ぐうの音も出なかった。渋々かおるの運転を認めるのであった。


 片付けも終わり、出発しようとしたとき、


『じゃぁ、あなたは百貨店に寄って手土産を買ってきてね♪。あっちのお菓子はこっちでは珍しくておいしいから適当に見繕みつくろってきてね。じゃぁ、お願いね♪』


 と、言われ、俺は日本に飛ばされるのであった。



/*

     その頃、飛ばされた二郎は?

*/



 気付くと俺は、百貨店の目の前に飛ばされていた。かおるに言われたとおり、地下の食料品売り場へ行き、何がいいか見て回った。


「クッキーにロールケーキにゴーフルにおかき類に和菓子。多分、数が多い方がいいよな。よし!クッキーにしよう!」


 お徳用クッキーを二箱買って、のしの描かれた紙を貼ってもらう。


「宛名はどういたしましょう?」


「どちらもバーンクリット公爵様へ、でお願いします」


「お名前はカタカナでよろしいですか?」


「うん。カタカナでお願い」


「かしこまりました」


 どうせあちらはのしの文化なんて無いし、手渡しで渡される贈り物に宛名が書かれる文化もない。だから気持ちの問題だ。あちらが分らなくても問題ない。


 お会計を済ませ、クッキーを受け取って百貨店の外に出ると、また、あの黄色い光に包まれる。かおる、ベストタイミング!



/*

     その頃他のパーティーメンバーは?

*/



『うふふん、ふふーん♪』


 私、かおるはご機嫌で車を運転していた。


かおる様は本当に運転がお好きなのですね?』


『そうよー♪』


 ルームミラーをチラリ。こちら出身のパーティーメンバーは、萎縮いしゅくして、ちょっと震えている。ちょっとかわいそうだったかな?でも、他に運転できる人がいなかったんだし、仕方がなかったんだよ!


『そんなに萎縮いしゅくするんなら、あなたたちも車の練習してみる?』


『『『え?』』』


『さすがに町中まちなかじゃぁ危なっかしくてかわれないけど、こんな周りに人も建物ものない、ぶつける心配のないところだったら、運転かわれるわよ』


 よほど今の状況が今後、何度もあると、胃が保たないと思ったのか、


『『『是非!お願いします!』』』


 4人の声がハモった。



/*

     合流

*/



 かおるたち、パーティーメンバーが城下町にたどり着き、記憶を頼りにバーンクリット公爵邸前へ到着すると、かおるは、


『かの者を召喚したまえ』


 呪文を唱え、俺はパーティーメンバーと合流した。


 かおるはバーンクリット家の門番に声をかけた。


『私は、エリアリアーナ・バーンクリットと申します。公爵にお目通りをお願いします』


『少々お待ちくださいませ』


 門番は、呆れともくだらないともつかぬ表情で、渋々取り次ぐ。


『どうぞお入りください』


 かおるは車を指定された場所に停め、一行は下働きの者の案内で、応接室に案内される。


 しばし待たされ、


『よろしいでしょうか?』


『はいどうぞ』


 執事のように人が入ってきた。


『セバテベス、まだこのお屋敷に勤めていたのですね。お懐かしい!』


 かおるにそう言われたセバテベスという人は、目を見開き一瞬固まったが、すぐに復活し、電車の切符サイズの小さなつるりとした板を取り出し、


『どうぞこちらにお触れください』


『あぁ、簡易検査ね』


『左様に御座います』


 かおるがその板に触れると、板は青色に輝きだした。


 その様子を見たセバテベスは、落ち着いた風を装って、


『こちらも準備がございます。もう少々お待ち下さい』


 震える足で、セバテベスは部屋を後にした。


 またしばらく待って、恰幅かっぷくのいいおじさまが、セバテベスを従えてやって来た。


『おじさま、お久しぶりです』


 と、かおるは略式の礼をする。


『そ、そなた、本当にエリアリアーナなのか?』


『はい』


『いや、先に検査をさせてもらうぞ!』


『はい』


 おじさまはそう言うと、セバテベスに指示を出し、セバテベスは器を出した。儀式のときに酒を飲むときの杯に似ているが、陶器とうきで、色は朱色ではなく白だ。


 それに、ポットから液体を注ぐ。それにおじさまは小型のナイフで指を切り、杯に一滴垂らす。かおるも同じように指に傷を付け、血を一滴垂らした。液体は青色に輝いた。


『ほ、本当にエリアリアーナなのだな』


『はい。本当です』


 おじさまは驚きのあまり腰を抜かして尻餅をついた。セバテベスは震えている。


 セバテベスは魔術具を片付けて、また戻ってくる。すると、復活したおじさまは、


『会いたかったぞ!エリアリアーナ!この日が来ることをどれほど待ち望んだことか!』


『お久しぶりですおじさま』


 おじさまはかおるに抱きつき、ぎゅっと抱きしめる。目には涙が見える。


 ひとしきりかおるを抱擁したおじさまは、かおるを解放し、


『して、そちらの方々は?』


 かおるは、文化も言葉も分らない、異世界日本に飛ばされ、孤児として苦労したこと、あちらではかおるという名で過ごしていたこと、俺と結婚して2児のママになったこと、今回勇者に選ばれた俺に引っ張られる形でこちらに戻って来たこと、勇者のパーティーとしてカーライルたちを付けられたこと、あまりにも辛い過去で、こちらで暮らしていたことを、つい最近思い出したことを簡素に、しかし要点はつかんでおじさまに語った。


『そなたも苦労したのだな』


『はい。小さい頃は確かに苦労しましたが、夫に恵まれ、子供たちにも恵まれ、今は幸せな日々を暮らしております』


『うん、今が幸せならそれでいい、それでいい』


『それで、その、つまらぬものですが…』


 そして、やっと俺が買って来たクッキーをおじさまに渡す。


『手土産か、ありがとう』


 おじさまはそれをセバテベスに渡すと、セバテベスはハッと気付いたようにクッキーの入った箱を持って退出し、しばらくして、今渡したクッキーとこちらのお菓子だろうか?食べ物と、お茶を人数分振る舞われた。


『父上は留守なのですか?』


 かおるはそうたずねると、おじさまは、


『あぁ、間の悪いことに留守なのだ。お前の兄弟も、仕事に出かけていて留守なのだ』


 そう、申し訳ないように話した。


 かおるとおじさまは、その後他愛のない話しをし、俺たち外野の者はお茶を楽しんだ。



『名残惜しゅうございます』


 かおるはそう言い、今度はかおるから、おじさまを抱きしめた。


『本当に、もう、行ってしまうのか?』


『はい。これから王族に私の素性を明かし、記憶が戻ったことをお伝えせねばなりませんから』


『そうか。それは大事だな。それでは行ってきなさい。いつでも戻っておいで』


『はい。それではしばしお別れです』


 そう言い、俺たちは報告のため、王城へ向かうのであった。

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