第42話 暗躍
バルバに連絡をしてから20分程が経った。
俺はまだ地下通路内を移動しており、時々、城の衛兵や不知火達の声が響いている。だが、まだまだ遠いため、今の内に城内に入るとしよう。
「【悠貴、どこから入るんだい?闇雲に移動していたわけじゃないんだろう?】」
「【まぁな。今いるのは大体国王の私室の真下辺りだ。近くに出入口に繋がる仕掛けがあるはずだから少し探すぞ】」
「【おや、いつの間にそんな事を知ったんだい?】」
「【最初に城内へ侵入した時だ。敵の拠点の内部構造を初めに調べ尽くすのは基本だろう?】」
「【う、う~ん…それ、基本なのかい?】」
「【俺にとってはな】」
ズワルトは未だ唸っているが、無視して仕掛けを探す。流石に真っ暗闇の中、闇雲に探しても見つからない為、人差し指にマッチ程度の小さな火を灯して辺りの壁を調べ始める。
調べる時間は最大で5分程度だな。それ以上やると見つかる恐れがある。
たしか、仕掛けになっている部分には間近で見なければ全く見えない程小さな文字が刻まれているらしい。取り合えず、ズワルトの頭にチョップをかまして元に戻し、探すのを手伝わせる。
3分程経った時、ズワルトが声を掛けてきた。
「【悠貴、これじゃないかな?】」
ズワルトが指差した所を近づいて見る。よく見ると、本当に小さく文字が刻まれている。刻まれている文字は『ロゼ王国』だ。
俺を中心に半径2メートル程の遮音の結界魔法を張り、文字が刻まれている石壁を押して仕掛けを作動させる。結界魔法を使ったのは、出来る限り仕掛けが動いた際の音を遮断する為だ。
仕掛けが動くと、目の前に男の大人1人が入れる程度の隙間が現れた。
「おぉ~、これはすごい」
「関心していないでさっさと行くぞズワルト。仕掛けを元に戻したら、遮音結界を解く。さっきまでと同じように思念伝達で会話しろ」
「オッケー。ベルゼ君のいる魔王城にもこんな仕掛けがあるかなあるかな?」
「さぁな。戻ったら自分で探すか、デモン辺りにでも訊いたらどうだ?」
「そうさせてもらうよ。探す時は悠貴も一緒にどうだい?」
「時間が有ったらな……」
仕掛けを元に戻し、結界魔法を解除した後、部屋へと繋がる階段を上っていく。最後まで上りきると、木の板が目の前に現れた。
「【おや、こいつは本棚かい悠貴?】」
「【そうだ。で、この部屋に生命反応はあるか?】」
「【ちょっと待ってね………うん、部屋の中には無いよ。扉の先だと思うけど、そこには1つ生命反応があるね。】」
「【1つってことは衛兵だろうな。了解だ】」
ここも仕掛けを動かし、本棚を移動させる。すると、豪華な装飾が施された家具やシャンデリア等があちこちに設置されている、煌びやかな部屋が視界に入った。
「【人間の国の王って、なんでこんなにも金色が好きなんだろうね】」
「【知らん。さっさと用事を済ませて脱出するぞ】」
さて、ここから保険で考えておいた作戦を開始するとしよう。
勿論、完全な最終手段は自爆魔法で、
作戦はシンプル。囮を使い、囮に勇者共が釘付けになっている間に首都ロゼから脱出し、魔王領へ帰還するという内容だ。但し、囮は最終的に自殺してもらうがな。
で、その囮はというと、これから用意する。都合良く、扉の先に人間が居るからな。
「【ズワルト、扉の先のヤツをここに連れて来てくれ。誰にもバレないようにな】」
「【了解したよ】」
俺がやってもよかったが、ズワルトにやらせた方が早い上に正確だからな。
30秒程待つと、ズワルトが戻ってきた。衛兵と思わしき人間の男を拘束した状態で。
「【連れて来たよ】」
「【早速始める。魔力隠蔽と遮音の結界魔法を張っておいてくれ】」
「【了解】」
「んーーー!?」
「静かにしろ」
先ずは、コイツを使い魔契約を施し、俺の
次に、闇魔法の
これで俺達が脱出する為の駒…囮の完成だ。
「悠貴、この人間の姿を変えなくてよかったの?例えば君の姿にとか」
「このままで良いんだよ。俺の姿になんぞ変えてみろ。一発で魔王達に情報が漏れたと思われるだろ…」
「失敬、それもそうだね…」
時間も無いことだし、さっさと作戦を開始するか。衛兵の男の目を覚まし、これからやるべき事を伝える。俺に精神を掌握されている為、何の疑いも無く俺の命令通りに行動を開始した。
俺の命令は2つ。1つ目は現在俺を捜索している筈の勇者達。コイツ等に俺の存在がバレていないか確認する事。2つ目は俺の代わりに侵入者として死ぬ事だ。
「さて、ここから脱出するぞ。ズワルトは俺が脱出した後、結界魔法を解除しておいてくれ。次元移動みたいなので、直ぐに俺の所へ来る事が可能だろ?」
「もちろん可能だよ。分かった。仕事が完了したら直ぐそっちに行くよ」
魔晶石を取り出して魔力を補充を済まし、光魔法の
近くの森林へスピードを落としながら落下していき、風魔法の
「ズワルト、もういいぞ」
「実に見事な脱出だね悠貴」
「そんな訳あるか。勇者達に勘付かれた時点で駄目だろ」
「相変わらず厳しいねぇ~悠貴は。そういえば…」
俺は、ズワルトからの話を聴き流しつつ、使い魔契約した衛兵からの情報を確認しながら森の中を歩き始めた。丁度、勇者達の近くに辿り着いたようだしな。さすが、大国の衛兵と言ったところか。仕事が中々早い。
◇
悠貴が無事に脱出した頃、城内は未だ悠貴の捜索が行われていた。
「この城に侵入者が居る筈だ!総員、必ず探し出せ!!」
「「はっ!!」」
「まだ見つからぬのか…」
「大変申し訳ございません…」
「…勇者殿、本当に侵入者がこの城内に居るのか?」
「はい、必ず居ます。姿までは見えませんでしたが、玉座の間に僕ら以外の誰かが潜んでいるのを感じ取りました」
「隊長のおっさん、不知火の言う事が信じられねぇのか?」
「…そんな事は無いぞ。(勇者殿の勘は確かによく当たり、今日まで助けられたことが何度もあったが、今回は流石に……)」
未だに侵入者が見つからず、本当に侵入者が居るのか疑わしくなったフェルト。そこへ…
「伝令!伝令!!侵入者を発見!!直ちに追いかけます!」
侵入者を見つけたとの報告が入った。
「漸く見つけたか………」
約10分後、ローブを纏った男が城の衛兵と勇者達によって包囲されていた。
「よし!これで逃げられないぞ!覚悟することだね!!」
「さぁ!今すぐ正体を現すのだ!!」
「………」
「き、貴様!この戦力差を解っているのか!?」
ローブの男は逃げきれないと思ったのか、腰に携えていた小刀を取り出し、臨戦態勢へ入った。
そのまま突撃してくるのかと思い、衛兵と勇者達が身構えていると…
「…………」
ローブの男は小刀の刃を自身へ向けた。
「まっ、まさか!?おい!ヤツを止めろ!」
「りょ、了解しました!」
フェルトが部下へ、自害を止めるべく指示を飛ばしたが…
「な、なんてことだ…」
「うっ…うえっ……」
小刀はローブの男の心臓へ突き刺さり、少しの間痙攣したかと思うと、ローブの男は動かなくなった。つまり、死亡した。
「この者の調査と処理を開始する。勇者殿達は部屋へお戻り下さい」
「あ、はい。そうさせていただきます」
「ひ、人が……」
不知火嘉音達、勇者一行は目の前で人が死んだ事で気分が悪くなった為か、口元を抑えながらその場を後にして行った。
「勇者殿達は大丈夫だろうか……」
「た、隊長!このローブの男なのですが……」
「どうした?正体が判ったの…っ!?」
フェルトはローブを剥がされた男の顔を見て愕然とした。
◇
「(これでロゼ王国潜入作戦も終わりか…)」
「ん?どうかしたの悠貴?」
「たった今、囮にした駒が死んだ」
「死んだという事は、無事任務を終えたんだね。それで、結果はどうだったの?」
「侵入者の存在には気付いたようだが、それが俺とはバレていなかった。これで心置きなく魔王領へ帰れるな。バルバに連絡を取る。少し待て」
「いやぁ~中々楽しい潜入作戦だったね」
「あっそ…」
通信用の魔道具を起動させ、バルバへ連絡を取る。
「【こちらバルバ。ユキ殿か!?】」
「【あぁ、俺だ。無事に城を脱出した。現在は近くの森の中に潜んでいる。この魔道具を頼りに俺の元へ
「【無論出来るとも。直ぐに貴殿の居る場所を割り出し、迎えに行く。暫し待っておいてくれ】」
「【了解だ】」
「【本当に無事で良かったってレ、レイリスさm】」
「【ユッキー!!本当に無事なの!?】」
「【無事だ。直ぐにそっちに戻るからそのまま待っとけ】」
「【なら良かった。そういえば色々言いたい事があるんですけど!!】」
レイリスが自分だけ魔王領へ
さて、次は勇者や冒険者達を含めたロゼ王国軍の殲滅戦だな。どうやって攻めていこうか………
ーーー
大変お待たせ致しました。第42話です。
EDF隊員になって地球を守っていたため遅れました。
冗談です。単にモチベが上がらず、サボっていただけです………
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