第43話 帰還、そして会議

 首都ロゼにある王城より脱出し、バルバへ連絡後、近くの森林の中で潜むこと約10分。バルバから準備が出来たとの連絡が入った。


「【ユキ殿お待たせした。これより貴殿を迎えに行く。貴殿の周りは大丈夫か?】」

「【あぁ、問題ない。今も索敵をしているが、猪や鳥等、動物以外の生命反応は無いからな】」

「【それは良かった】」


 通信が切れると同時に、目の前の地面に魔方陣が浮かび上がった。その魔方陣が光ると、そこにはバルバが立っていた。


「ユキ殿、本当に良かった…」

「ズワルトがいるから、そう簡単には死なん。それよりさっさと魔王領へ帰るぞ」

「それでもユキ殿の事が心配であったのだ。…うむ。レイリス様や魔王様も貴殿の帰りを首を長くして待っておられるからな。ユキ殿こちらへ」

「分かった」

「じゃ、僕は一足先に魔王の城へ戻るよ。また後でね悠貴」

「あぁ……」


 ズワルトは消えるようにその場を後にした。さて、俺も帰るとするか。


 バルバが用意した魔方陣へ移動し、魔力を流し込み、転移トランスを起動させると眩い光が俺達を包み込んだ。




「ユッキー!!」


 光が収まると、そこは魔王とバルバとの3人でよく会議をしている、小さな円卓と椅子が3つ置かれているだけの部屋であった。

 そして、泣きながら俺に突っ込んで来るレイリスの姿が目に入った。


「うわああああん!!心配させないでよー--!!」

「どうした?そんなに泣いて」

「ユキが1人だけ敵の根城に残った事をとても心配していたのですよレイリスは。まぁ、ワタシも万が一の事があったらと心配が気が気で無かったのですが……特に自爆魔法なんて使っていないか、と…」

「魔王様、口調が素に戻っております」

「ゴホン。フハハハハ!ユキよ、ロゼ王国への潜入作戦ご苦労であった!リースの部下であるシュリが勇者達へ寝返ってしまったのは残念であるが…」

「1人くらい寝返るのは想定内だから問題無い。…で、お前はいつまで俺に抱き付いて泣いているつもりだレイリス?」

「ユッキーが抱き締めてくれるまで……」

「…仕方ない」


 レイリスの要求通り、軽く力を入れて抱き締めてやった。


「グスっ……もうユッキーったら、こういう場合は、何も言わずに抱き締めてくれてもいいんじゃない?」

「知らん」

「えぇー-!!?」

「さ、さすがユキ殿であるな…」

「う、うむ……」


 レイリスは不満そうに頬を膨らまし、バルバと魔王は顔を引きつらせている。特に何か可笑しい事を言った覚えはないんだが…


「魔王にバルバ、さっさと会議を始めるぞ。勇者のせいで会議する時間が減っていることだしな」

「いや。先ずは休息を取るのだ、ユキ」

「休息なんぞ要らん」

「ダメよユッキー!!先ずは休むの!」

「うむ。我も魔王様達と同意だ。ユキ殿、貴殿は少し休むべきだ。なに、ユキ殿が戻って来るまでに会議はある程度進めておいた。ユキ殿が休息を取る時間はある。……ユキ殿、我等にとって貴殿は貴殿自身が思っている以上に大切な存在である事をそろそろ自覚してくれ…」

「……分かった。だが、休息の時間は10分程までだからな」

「バルバよ、直ぐに飲み物を持ってくるのだ!」

「はっ!」


 自覚しろ…か……

 そう言われてもだな、俺は本当に価値のない人間だぞ。




 10分程休息を取った後、ロゼ王国軍をどう対処するかの会議を開始した。


「で、お前はなんでまだ俺に抱き付いている?さっさと席に着け」

「大丈夫よ。十分堪能したら席に着くから」


 レイリスは座っている俺に乗っかるような形で抱き付いている。会議する事に支障はないが、前があまり見えん。


「フハハハ!ユキ、こうなったレイリスは誰にも止められん。諦めて続けようではないか」

「久々に見ましたね。レイリス様がくっ付いて離れないのを。前回はたしか少しの間保護していたシャドウウルフの子供でしたっけ?モフモフから離れt」

「ちょっと!恥ずかしいからやめてよ!!」

「す、すみませんレイリス様」

「……話を戻すぞ。ロゼ王国の作戦は2つ。こちらへ嘘の侵攻情報を流し、それに食いついた隙を突いて他の拠点に攻め込み、占領する。魔王軍幹部の内、リース、俺、他グリオス隊隊長の誰か1人の計3人の討伐。そして、バルバを可能であれば討伐するって内容だな」

「うむ。ユキが帰って来るまでに出ていた案は、ロゼ王国同様2つの部隊を作りそれぞれ撃破する、というものだな。ただ、戦力配分をどうするか悩んでいたところだが…」

「そうだな………」


 たしかに、部隊を2つ作って戦力を二分するのが妥当だ。だが、俺は部隊を3つにすることを提案する。何故部隊を3つにするのかと言うと、相手が奇襲してくるならこっちも奇襲を仕掛ける為だ。

 で、戦力配分だが…勇者達のところにバルバ、フォール、デモン。万が一の時の為にルーチとベルフを待機。ヴァイとグリオス隊に入っている連中、他をロゼ王国軍の足止め部隊と占領を目的とする部隊に。で、最後に俺とバルバの部下であるアルゴとファニス、そしてフォールの部下であるレガレスの4人。俺達は遊撃という名の奇襲部隊だ。


「…ってな感じだ」

「リースはどうするのだ?」

「リースは魔王城にて魔王と共に待機。ヴァイ達が劣勢になりそうになったら、ヴァイ達の援護に向かってもらう」

「ユキ殿の部隊がユキ殿を含めて4人なのは何故だ?」

「足止め部隊の戦力を削る、勇者達に嫌がらせ兼バルバ達への援護等、色々やるからな。部隊人数は少ない方が良い」

「ならば、我もユキ殿の部隊に入るほうが良いのでは無いのか?」

「いや、バルバは勇者達を相手していてくれ。フォール達だけでも問題ないだろうが、念には念を入れておきたい」

「了解した。ユキ殿の指示に従おう」

「魔王は何か意見があるか?」


 俺がそう訊くと、魔王はこう返してきた。


「大精霊であるディアナを戦力に加えないのか?」

「ディアナは今回戦力に加えない」


 ディアナか……

 俺も最初は戦力に加えようと思っていたが、切り札はまだ隠しておくべきだと判断して、今回の作戦には戦力として加えないことにした。正直な話、ディアナとバルバの2人で勇者達を一網打尽に出来ると思うが、帝国の戦力がまだ未知数な為、出来る限り敵に情報を与えたくない。

 そういう訳で、今回の作戦にはディアナの力は借りない。


「あたしはー?って言いたいところなんだけど、あたしが出て行って万が一の事があれば皆が悲しむ事が解っているから、今回はお父様のお城ここで大人しく待っているわ。そういえば、シエスはどうするの?」

「シエスもお前と同じ場所で待機してもらう」

「分かったわ」


「うむ。今日はこのくらいにしておくか。詳細については明日、他のグリオス隊隊長を含めて行う。今日はゆっくり休むが良い」

「そうですね魔王様。ユキ殿、今日は魔王城ここに泊まると良い。シエス殿は後で我が迎えに行こう」

「了解だ。あぁ…そういや言い忘れていた。先程の俺を中心とした4人の部隊については他言無用で頼む。正直に言わせてもらうと、リースの部下が裏切った事もあり、魔王軍内では現状だと、魔王とバルバの部隊しか信用していないからな」

「む、むぅ……そうであるか。了解した。伝えるのは我の部下の2人、そしてフォール殿の部下であるレガレスだけで良いのであるな?」

「それで良い」

「フハハハ、ではこれにて会議は終了であるな。ユキよ、これから吾輩の私室にてロゼ王国に潜入した時の出来事について詳しく話すのだ。我が子やシエス達も一緒にな」

「分かった分かった。どうせ拒否権は無いんだろ?」

「もちろんだとも」


 魔王がドヤ顔をしながら俺にそう返事をした。これまで、毎日日報を報告している時に色々と話していたから、別段話すことも無いと思うが……

 レイリスも顔を輝かせながら俺を見ている…

 仕方ない、付き合うとするか……


「では我はシエス殿達を迎えに行って参ります」

「頼んだぞバルバよ」

「はっ!」

「それではワタシ達も行きますよ」

「魔王、口調はいいのか?」

「ここから先はプライベートですからね」


 バルバを見送った俺達は、魔王の私室へと向かった。魔王の私室に向かうまで、レイリスは俺に抱き付いたままだったけどな……


---

お待たせしました。と言っても、最近の更新頻度で言うと、お待たせしていないのかもしれませんが(笑)


地味にモチベがあったのと、書く時間がそれなりにあったので更新しました。

近況ノートって、それなりの頻度で私も更新した方が良いですかね?特に書くネタも無いですが……

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